“内助の功”という側面も。「うまく行っている農家は、奥さんの存在が大きい。研究者の論文でも同様の指摘が多いように思います」。こう指摘するのは、静岡・菊川市を拠点に農業シンクタンク事業などを手掛ける加藤百合子さん(エムスクエア・ラボ代表取締役)。加藤さんについて詳しくは後述するが、農業の流通でイノベーションを起こし、日本政策投資銀行の「第1回女性新ビジネスプランコンペティション」で初代グランプリを獲得した注目の女性起業家だ。加藤さんからみても女性農家は、米や野菜を販売する際、包装のデザインや商品のネーミングにしても「消費者目線を外さない」と現実志向が奏功している。ただ、それでいて「肝っ玉もあるので、旦那さんがチャレンジするときは止めない」という勝負所での度量もあるのだという。
流通から農業に新風を吹き込む女性起業家
農業の世界で新しい担い手やアイデアが必要なのは、田んぼや畑などの現場だけではない。前述の塚原さんは「今の農業は生産と消費の距離が遠い。だから消費者は目の前の食べ物にも何の疑問を持たない」と考える。自身が農家との交流を機に本格的に農業と向き合うようになった経験を踏まえ、何らかの形で農家と生活者を結ぶ農業をするのが将来の目標になった。ただ、その話を聞いて筆者は驚いた。というのも同じような問題意識をほかにも聞いていたからだ。それが静岡の加藤さん。彼女が政投銀で表彰されたのは、まさにB2Bの中で作り手と買い手の関係性を新しく築き上げたからだ。
農家と、外食や食品加工等の業者は、いざ直接取引をするにも農協が主体的に手掛けた時代が続いた影響で顔が見えづらい。「この果物を誰が買うのだろうか?」と農家が疑問に思えば、業者も「誰がどのくらい作っているのか?」と情報不足に悩む。
そこで、加藤さんたちは生産現場の育成状況を把握し、買い手側の相談にも乗るといったコーディネーターを務め、情報をシェア。県内の約100軒の農家と、各業者との取引が円滑に進むようになった。「静岡は小さい農家が多いのですが、狭い土地で高い作物を作れるので反収は高い。中小の惣菜会社との取引などで成功事例が出ています」と加藤さん。「ベジプロバイダー」と名付けた、この新しい流通の取り組みで新しい市場を掘り起こした。
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