日本人は「在宅死」の尊さを意外にわかっていない 医療技術に心配は無用、最後は自分の意思で

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Q)モルヒネや医療用麻薬を使うのが不安なんですが……

A)モルヒネや医療用麻薬に対して、「中毒になるのではないか」「死期を早めるのではないか」と心配し、「最後の手段」というイメージを持っている患者さんは少なくありません。中には、「うちの親にモルヒネを使うなんて安楽死させる気か」と怒り出す家族もいるくらいです。

しかし、モルヒネなどの医療用麻薬を使ったからといって、死期が早まったり中毒になったりすることはありません。「安楽死させる薬」や「最後の手段」というのも誤解です。早期がんの痛みの治療にも使いますし、命にはかかわらない帯状疱疹による神経痛にも非常に効果の高い薬です。

モルヒネは命を縮める薬ではない

アメリカの在宅ホスピスチームががんの痛みを軽減するために435人の患者さんに投与したモルヒネの量と生存期間を分析した結果では、むしろ、モルヒネの投与量の多かった人たちのほうが長く生きたとの結果が出ています。命を縮める薬ではないですし、痛みを軽減して残された人生を有意義に過ごすために必要な薬なのです。

(出所)国際麻薬統制委員会(INCB)の統計より

(外部配信先では図を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

・痛みの治療に使う「医療用麻薬」は依存症とは無縁

『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期 』(世界文化社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

身体的な痛みの軽減には、モルヒネ以外にもさまざまな医療用麻薬を使います。「麻薬」と聞くと依存症や犯罪を連想しがちですが、痛みのない健康な人が麻薬を使うと脳の中で「ドパミン」という快楽物質が働き、短期間で中毒症状が出て、薬が切れると不快な症状が出るようになります。

ところが、これまでの研究の結果、痛みのある人に医師の指示に従って適切に医療用麻薬を使ったときには、このドパミンは働かず、麻薬中毒になる心配はほとんどないことがわかっています。日本では、欧米に比べて医療用麻薬の使用量が少なく、痛みを軽減する緩和ケアが適切に実施されていない恐れがあります(図1)。医療用麻薬は体の痛みや息苦しさを減らすために不可欠な薬であることを知っていただきたいと思います。 (長尾クリニック院長 長尾和宏医師)

『在宅死のすすめ方』取材班

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『在宅死のすすめ方 完全版』(世界文化社)は以下の面々で取材・執筆・構成を担当した。

(取材・執筆)
福島安紀(ふくしま・あき)/医療ライター、横井かずえ(よこい・かずえ)/医療ライター、大成谷成晴(おしょうだに・しげはる)/編集・ライター、小川留奈/医療ライター

(構成)
田中留奈(たなか・るな)/「伝えるメディカル」代表

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