スバル「WRX」は何がスゴイのか 実用と走りを両立させたスポーツ・セダン

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 前/倒立式ストラット、後/ダブルウィッシュボーンにビルシュタイン製ダンバーを組み合わせた足回りは、サーキット走行に耐えられるほどに硬められている。が、ただ突っ張っているわけではなく、しなやかに動いて路面からの入力をいなしている。従来比で重心高を10mm低めたことに加えて、コーナリング時に軸足となるリアタイヤのグリップを確保することで、コーナリングの限界Gの高さを実現した。平たく言えば、リアがしっかりしてぶれなければ、ドライバーは適正な荷重移動と操舵でクルマの姿勢を確実に変えていける。スピンに対する不安感もなく、ドライバーに対して安心感を与えてくれるクルマだ。

反対に、もしシャシーの剛性と足回りがしっかりしていなければ、路面や姿勢変化で生じたブレをドライバーが補正することになる。そうなると、クルマがぐらついて、運転していても恐怖感があるし、よほどの運転技術がないとクルマを思い通りにコントロールできない。「WRX STI」で富士スピードウェイを走った印象では、多少、オーバースピードでコーナーに侵入しても姿勢変化を感覚的につかみやすく、急激にコントロールを失うこともなかった。

水平対向エンジンと並んでスバルの十八番である4WDシステムでは、フロントデフにヘリカルLSD、リアにトルセンLSDを採用し、センターデフに機械式と電子制御式の2種のリミテッド・スリップデフ(スリップしそうなタイヤへの動力配分を制限して、スリップしない方のタイヤに供給する)を内蔵した「Symmetrical AWD」を組み合わせる。前後のトルク配分を41:59に設定

水平対向エンジンと並んでスバルの十八番である4WDシステムは、前:後=41:59から前後を直結させた状態までトルク配分を自在に変化させて、走行状況やドライバーの望みに沿ってトルク配分をコントロールする優れものだ。

トルク感応型の機械式LSDが初期応答性を高め、電子制御式LSDによって「マルチモードDCCD」なる3種のモード切替を実現した。オールラウンドの「AUTO」のほか、滑りやすい路面を走るときには前後の作動制限トルクを高めに保つ「AUTO+」を選べば、路面をしっかりとらえるような制御を行う。スポーティ走行をしたければ、回頭性を重視してステアリング応答性を高めた「AUTO−」を選ぶといい。さらに、AWDのコントローラのレバーを前後に倒すと、締結力を段階的に調節するツウな設定もできる。ラリーファンなら、試してみたい機能だ。

0−100km/hを5秒フラットで加速するスペックは、フェラーリやランボルギーニといったスーパー・スポーツカーのスペックと比べたら見劣りはするが、一方で「WRX STI」のスポーティネスは誰もが容易に体感できることを強調すべきだ。富士スピードウェイの最終コーナーをうまく立ち上がると、パドックが始まる頃には180km/hを超えたあたりでリミッターにあたってしまう。このとき、スロットル・レスポンスの高さを実感できる。そのまま速度を保ち、第一コーナーの手前でブレーキを踏み込むと、強化されたブレンボ製ブレーキの効用と高いボディ剛性が相まって、前足にしっかりと荷重をかけながら、リニアなステアリング・フィールとともに鼻先を曲げていく。リアタイヤを軸にしつつ、前後の足がよく動いて路面を捕まえて、AWDシステムが前後のタイヤにトラクションを余すことなく伝える。コーナーの後半で路面に食いついて、アクセルを開ければ、再び、レスポンスと路面追従性の高さを味わうことができる。

400万円アンダーという点も魅力

日本での販売価格は、「WRX S4」が全車にアイサイトを標準装備して310万〜330万円。「WRX STI」がエントリーの「STI」が351万円、装備を充実させた「STI TypeS」が381万円。BMWジャパンのサイトを見ると、同価格帯では3シリーズには手が届かず、120iならなんとか手が届くが、Mスポーツ仕様は選べない。

「WRX」はスバル自身が「水平対向エンジンを積むスポーツ・クーペをベンチマークした」というだけあって、シャシーとパワートレインのバランスがよく、富士スピードウェイのような高速サーキットでのテストにも充分に耐える走行性能を持っている。エクステリアやインテリアに欲を言い出せばキリはないが、実用性も備えたスポーツ・セダンが400万円アンダーで買えるという事実は、世のクルマ好きにとって福音であろう。

(Photo=出雲井 亨)

川端 由美 モータージャーナリスト
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