指示命令ない組織を夢見る人に知ってほしい現実 ティール組織への憧れには不都合な真実が見える

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狩猟採集社会は、一般に認識されているような野蛮な社会ではない。狩猟採集社会は、組織内における自由と平等を守っている。たとえば、ネイティブ・アメリカン(いわゆるインディアン)の社会には、族長、酋長や王族といった順位制があるかのごとく信じられている。しかし、それは間違いである。現実のネイティブ・アメリカンの社会には、上下関係を固定化するようなヒエラルキーは(ほとんど)存在していない。また、狩猟採集社会においては、人々は権力や物質主義から距離を置き、激しい戦闘もまれだ。

かつて、狩猟採集民は、生き延びるために毎日必死に働いている「野蛮でかわいそうな人々」であると信じられていた。しかし、人類学者マーシャル・サーリンズは、狩猟採集民の労働時間は1日あたり4時間程度(狩猟採集などに2時間、道具の管理などに2時間)にすぎないことを明らかにした。あとは自由に好き勝手に生きているのである。サーリンズは、狩猟採集社会の生活は、私たちの想像以上に(精神的な意味で)豊かであることを示し、狩猟採集社会のイメージに大きな変化をもたらしたのである。

狩猟採集社会が天国ではないワケ

とはいえ、狩猟採集社会は(現代先進国の価値観からすれば)天国ではない。そもそも狩猟採集社会の自由と平等は、生きるために必要なリソースに余剰がないことの結果にすぎない。誰もが安全ではないため、セーフティーネットも存在しない。近代的な技術を使わずに、安定的に野生の動植物を確保していくことはとても難しい。

狩猟採集社会は、常に飢えているような状態だからこそ、自由と平等がなければやっていけないのだ。事実、狩猟採集社会のように、自然の恵みにだけ依存する場合、1平方キロメートルあたり3人も支えることができないらしい。これが農耕社会になると、1平方キロメートルあたり25〜500人も支えることができるという。

狩猟採集社会における労働時間が短いのは、長時間労働ができるだけのエネルギーが得られないからでもある。さらに、季節によって特定の場所で食物として採取できる生物は異なる。このため、狩猟採集社会では、季節ごとの移動が求められる(例外的に豊かな漁場が近くにある場合などは、この限りではない)。

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