指示命令ない組織を夢見る人に知ってほしい現実 ティール組織への憧れには不都合な真実が見える

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狩猟採集社会は、基本的には定住とは無縁の社会だ。しかも、移動についてこられなくなった病人や高齢者は、置いていかれることが多い(イヌイット、ホピ、ウィトトなどで報告例がある)。定住できないのだから、所有物は必要最小限にとどめなければならない。所有物を増やし、それを運べるくらいなら、移動できなくなった病人や高齢者を運んであげたい。愛する人々でさえ置いていかなければならないほど、移動は過酷なのだ。

自由と平等を犠牲にしても守りたかったもの

そのため、わずかな所有物にも、運びやすさ(=可搬性)が求められる。そもそも、ため込もうとしても、ため込めるだけの食料は確保できない。こうした背景から、狩猟採集社会では、財産を貯め込む欲求(=経済的欲求)が希薄となる。財産に執着し、無理な長時間労働を行えば、飢え死にしてしまう。そうした欲求を持つと、遺伝子を残せなかったのだ。

しかし私たちの先祖は、狩猟採集社会が与えてくれるような幸福よりもむしろ、財産に執着し、余剰を確保することで、家族の安全はもちろん、移動できなくなった病人や高齢者を捨てる必要のない社会を求めた。そして、常に持続可能性を危機にさらしながら、農耕社会への移行を推し進めてきたのである。余剰がなければ平等に分け合うが、余剰があれば愛する人々のためにそれを奪い合うのが人間なのだと思う。

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農耕社会に移行した私たちが、自由と平等を犠牲にしてでも守りたかったのは、愛する人々の存在である。その我慢は、組織の未来に生活を依存している、愛する人々のためにこそなされてきたのである。しかし、私たちが(家族が解体されていく過程で)愛する人々の存在を見失い、マネージャーやリーダーとの格差が極端になっていくとき、ティール組織の理想への回帰願望が強くなっていく。これが、農耕社会以降、繰り返されてきた人間の歴史である。

ティール組織の現実は、飢えと隣り合わせの厳しい世界ではある。しかし、自由と平等を犠牲にしたとしても、ちょっとした不運で飢えてしまうような状態ならば、構造的な不幸を強いられる農耕社会を維持することへの社会的な合意は蒸発する。ティール組織という概念が、多くの経営者たちの心をざわつかせている背景には、そんな「不都合な真実」の存在があるのだと思う。

果たして、あなたには、他者から自由と平等を奪うだけの正当性があるだろうか。その正当性は、どうすれば獲得することができるのだろう。

酒井 穣 株式会社リクシス 取締役副社長CSO

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さかい じょう / Joe Sakai

1972年、東京生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg 大学 TIAS School for Business and Society 経営学修士号(MBA)首席(The Best Student Award)取得。商社にて新事業開発、台湾向け精密機械の輸出営業などに従事後、オランダの精密機械メーカーにエンジニアとして転職し、オランダに約9年在住。帰国後はフリービット株式会社(東証一部)の取締役を経て、独立。複数社の顧問をしつつ、NPOカタリバ理事なども兼任する。主な著書に『新版 はじめての課長の教科書』(ディスカヴァー)、『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』(光文社新書)など。

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