年収300万円の男性と「アプリ婚」40歳女性の選択 遠距離、2回の結婚経験よりも重視したこと

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新居は東京に構えた。千恵さんは職場と交渉して、毎週1泊2日だけ出勤して授業などを行い、あとは在宅で働くことにした。それでも交通費や宿泊費はかかる。

収入やキャリアを考えれば、幸太郎さんのほうが関西に引っ越すべきだったのかもしれない。実際、幸太郎さんは今後の共同生活でかかる夫婦の費用を計算し、自分が関西に行くべきだと認識した。しかし、幸太郎さんの実家には高齢で介護が必要な父親と病弱な妹がおり、関東地方から離れるのは難しい。千恵さんのほうが折り合いをつけることにしたのだ。

すり合わせをしながら暮らす

「引っ越してから1カ月ほど経ちますが、自分のテンポとは違う他人と暮らすのは大変です」

千恵さんがあまり表情を変えずに本音を漏らした。「大変さ」はある程度覚悟して結婚生活に臨んでいるのだろう。お互いに荷物が多いほうだが、千恵さんはさっさと片づけたい。

一方の幸太郎さんは「これはどこに飾ろうかな」と楽しみながら少しずつ進めている。引っ越した際の段ボールがまだ積まれている状態だが意に介してない。家事は在宅していることが多い千恵さんがすることが多く、重荷になっている。

「あまりに負担が多いと、ときどき小さく爆発します。私が不機嫌になって無口になると、彼も『どうしたの?』と聞いてくれるので話し合ってすり合わせをしているところです。彼は料理以外の家事はできるので問題はありません」

すり合わせが難しいポイントもある。幸太郎さんは死別した前妻のことを今でも大切に思っており、位牌には毎朝手を合わせて前妻との結婚記念日には思い出のレストランに1人で訪れたいと主張。まあ、それはいい。千恵さんが「キツイ」と悲鳴を上げそうになったのは、幸太郎さんが前妻の遺品や前の結婚生活で使っていた食器類を新居にたくさん持ち込んだときだった。

「私にもガマンの限界はあります。これから新しい生活をする気があるのか、と問いただして、大半は彼の実家に送ってもらいました」

それでも千恵さんは毎日が楽しい。幸太郎さんからプロレスや大相撲の楽しさを教えてもらって一緒に鑑賞できるというプラスの側面だけではない。「一人で暮らすことにはとっくに飽きている」という千恵さんは自分のペースだけでは物事が決められない煩わしさをむしろ楽しんでいるのだ。

「おそらく向こうも煩わしく思っているはずです。でも、迷惑をかけられる人が近くにいることは幸せなことだなと感じています」

年齢を重ねてからの結婚は「今の仕事や生活を変えずに済むこと」に注視しがちだ。しかし、他人と人生を分かち合うことは新しい自分になることでもある。変化には苦労が伴いがちだが、それすらも生きる喜びだと思える人が晩婚には向いているのかもしれない。

本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。
大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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