小田急多摩線を何度も往復「謎の回送列車」の正体 運転士が「基本中の基本」のブレーキ技術を競う
自動制動は車庫内などで訓練をすることがあるものの、20年以上の運転士経験者でも「営業運転で使ったことはない」(小田急CSR・広報部桐山良一さん)という。今回のように本線上で多くの運転士が参加し、実際に各駅に停車しつつ走る競技会を開いたのは初めてだ。
搭載車両も数少なくなった中でこのような機会を設けたのは、技術の伝承が大きな狙いだ。「若い運転士に車両の仕組みを理解する楽しさを、競技会という形で『わくわく』しながら知ってもらう場をつくりたかった」と、企画者で自らも長く運転士を務めた運転車両部の新井友章さんは説明する。
エントリーした運転士は4つの電車区から各6人、計24人で、実際には23人が参加。各電車区は乗務のシフトによって6つのグループに分かれているといい、各グループから1人が立候補や推薦などで出場した。「予想以上に若手の熱意がありました」と新井さんは言う。
ブレーキ感覚は「お尻で感じる」
1000形の運転台は加速度を調整するマスコンが左、ブレーキハンドルが右にある2ハンドル式。運転士らによると、自動制動はブレーキ管に空気を込めて圧力を高め、ブレーキを緩める「ユルメ込め」位置、ブレーキ管内の空気圧を一定に保つ「重なり」位置、そして管内の空気圧を下げてブレーキをかける「自動ブレーキ」位置という3つのポジションと非常ブレーキがあり、通常は前者3つの操作を組み合わせて減速、停車させる。
操作時の目安となるのは運転台に2つ並んだ圧力計だ。右側のメーターの黒い針がブレーキ管内の圧力、左側のメーターの赤い針がブレーキシューにかかる圧力を示しているが、「運転を始めて最初の1駅や2駅は車両のクセをつかむために計器を見るが、基本的には『お尻で感じる』んです」(運転車両部長・田島寛之さん)。制動力やタイミングを「体感」で把握することが重要なのだ。
自動制動の難しさは、現在主流の電気指令式ブレーキなどと比べ、操作から効き始めるまでのタイムラグが長いことだという。また、機構的に何度も追加のブレーキをかけると効きにくくなる特性もあるといい、電直や電気指令式の車両とはブレーキをかけるタイミングも変わってくる。
運転歴38年半のベテランで、かつて走っていた「荷物電車」で営業運転での自動制動を経験している前田隆文さんは、「ブレーキのかけ始めから実際に効いてくるまでが、今の電車と比べるとはるかに遅い。逆に手前で止まりそうだからといっても簡単に合わせることはできない。難しい機械で、本当に体感で覚えるしかないですね」と、その奥深さを語る。
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