ジョンソン政権は、「グローバル・ブリテン」を掲げ、空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群を派遣するなど、「インド太平洋傾斜」を進めている。当初の計画にAUKUSはなかったかもしれないが、よいタイミングで加わった。
イギリスの攻撃原潜は、空母打撃群のインド太平洋展開にも同行し、韓国にも寄港しているが、今後は、オーストラリアの基地の使用を通じ、インド太平洋地域での活動頻度が高くなるともいわれている。
欧州によるインド太平洋の安全保障への関与については、AUKUS合意に憤慨するフランスとの関係修復が課題になる。しかしフランスにとってのインド太平洋関与は、インド洋と南太平洋に有する領土・国民を守るという自国防衛の一環である。これはAUKUSによっても変わらず、とくにアメリカ軍との協力は死活的重要性を持ち続ける。
日本のアンビバレントな視線
米英豪のすべてと緊密な安全保障関係を築いている日本にとって、AUKUSによって、中国を念頭においた地域の抑止態勢が強化されるのであれば好都合である。
菅前政権時代から茂木敏充外相などは、AUKUSについて、米英豪による協力やインド太平洋への関与を強化するものとして「歓迎する」と表明してきた。ここで注意すべきは、原潜計画を直接的に歓迎しているのではない点である。
ここに、AUKUSをみる日本のアンビバレントさが存在する。というのも原潜問題は日本にとって極めてセンシティブだからである。
第1に、日本が原潜を保有すべきかに関する議論はすでに活発化しているが、日本に求められる任務や地理的条件の関係、防衛予算の制約、さらには国内政治の観点から、保有すべきとのコンセンサスがすぐに成立することは考えにくい。実際、岸田文雄首相は原潜の必要性に極めて懐疑的な見方を示している。
第2に、日本が保有を求めたとして、アメリカがそれを認めるか不明である。AUKUS創設にあたってもバイデン政権は「1回限り」の特殊事例であることを強調している。原潜技術は「永遠の友人」にしか供与しないともいわれ、今回の米英豪はインテリジェンス共有のメカニズムである「ファイブ・アイズ」のさらにコア・グループである。これは偶然ではない。
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