議員へのリコールを推進する中国国民党の事情

勤勉な国会議員のリコールに中国の影も

一方、国の一大イベントである選挙ならいざ知らず、一議員のリコール投票に仕事で忙しい若者が、今回もわざわざ故郷に戻って反対票を投じるのかわからない。一部の世論調査では、リコールが成立する可能性が高いとあり、陳氏陣営は警戒を高めている。

驚くことに、国民党は陳氏とともに、無所属のフレディ・リムこと林昶佐氏のリコールも進めようとしている。こちらも陳氏と同様、台湾独立を主張し若者に人気のある議員だ。そして、彼らにはもう1つ共通点があった。2人とも国防外交委員会に所属する議員なのだ。

国民党内の”統一派”の影響を無視できず

現在、国防外交委員会に所属する議員は、民進党が6人、国民党が5人、基進党が1人(陳氏)、無所属が1人(林氏)で、委員長は民進党議員で投票せず、実質5対5の状況だ。そこでキーパーソンになるのが、陳氏と林氏の存在だ。

例えば中国が軍事圧力を高める中、与党としては軍関連の予算を増やしたい。しかし、先の朱主席の中国側からの祝電への返信に代表されるように、国民党としては中国との友好路線を掲げているため、台湾の国防増強につながる予算増には反対だ。委員会内で5対5と拮抗する中、最終的には両氏の票が決定打となる。

両氏とも台湾独立を志向するため、中国の侵略阻止につながることなら民進党と手を組む。結果、現在の台湾の国防力の引き上げと、台湾主体の外交へと続いているのだ。

国民党にとって、台湾独立を高らかに主張する両氏を国防や外交の場から排除することは、単に勢力拡大だけにとどまらない。中国への大きなアピールになる。中国は台湾独立を主張する両氏をブラックリストに入れていると言われている。そのような中、朱氏が率いる国民党は本気で統一を進めたいのか、また、その力があるのか。中国が新しいスタートを切った国民党を見極めるうえで、最良の「宿題」と考えているはずだ。

朱氏は一度、党を率いて総統選に出馬経験のある政治家にもかかわらず、張亜中氏ら急進的な統一派の影響力を心底感じて返り咲いたのだった。党内で彼らから本当の意味で信用を取り付けるには、中国との友好・統一路線を明確にし、内外に向けてアグレッシブに戦う姿勢をアピールしなければならない。そこでリコール投票で「勝利」することは、朱氏のこれからのサクセスストーリーの第一歩になる。強い指導者像を築くことにつながり、最終的には党内を完全にまとめ上げ、来る総統選挙や地方統一選挙での政権奪還を図る……。計算高いと言われる朱氏は、そんな青写真を描いているのかもしれない。

仮に陳氏のリコールが成立したとして、顔氏が補欠選に立候補するのだろうか。立候補した場合、顔氏はリコール団体に参加しているので、いよいよ陳氏への報復と見なされ、台湾が命を懸けて築き上げてきた民主主義に、大きな傷跡を残すことになるだろう。国民党はそこまで考えているのだろうか。

米中関係が新しい局面を迎え、台湾の動向は世界が注目している。日本にも影響することであり、台湾における民主主義の行く末はたいへん気になる。果たして国民党は台湾の民主主義を推し進めるのか、あるいは後退させるのか。10月23日の陳柏惟氏のリコール投票に注目したい。

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