議員へのリコールを推進する中国国民党の事情 勤勉な国会議員のリコールに中国の影も

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また、大政党が小政党の議員をリコール要求することが当たり前になれば、社会はいつまでたっても少数意見が尊重されないものとなってしまう。次の選挙まで待って、有権者に認められ議員になる、これが本来の民主主義のあり方だろう。しかし、顔氏や国民党はそのようなプロセスを拒否し、現職議員のリコール要求という道を選択したのだ。

なぜそうなるのか。冷静にその裏側を読み解くと、国民党内の事情と、中国の影が見え始めた。

そもそも陳柏惟氏とはどのような議員なのか。1985年、台湾南部の高雄に生まれる。台湾の一般家庭の中で育ち、映画製作に従事。2011年、過労からひき逃げ事件を起こすが、罪を認め被害者とも和解、円満解決している。ちなみに、この事件は後の陳氏の政治家としてのスタイルにも影響しているようだ。2017年頃から与党・民主進歩党(以下、民進党)よりも台湾独立志向が強い基進党に入党。2020年、台中市第2選挙区において、国民党で現職の顔寛恒氏を11万2839対10万7766の5073票差で破り立法委員となった。

立法委員になって以降、議会の出席率は100%、単独での法案提議は19、共同提議は16、書面での質疑は18、口頭での質疑は134に上り、立法院で最も活躍している議員の一人と言われている。一方、陳氏自身、台中は「よそ者」であるとの自覚や、先の事件も影響してか、どんな有権者の声も大切にし、心を大切にする政治スタイルを貫いていると評価されている。陳情聞き取りも3011件に達し、早朝に台湾新幹線で台北の立法院に向かい、午後は地元に戻って陳情等を受け付け、夜は屋台などで食事しながら庶民の生活を観察するといった生活をずっと続けているという。政治の世界における経験不足を、若さの力で乗り越えてきたようだ。人民のために働くのが政治家とは言うが、陳氏はまさにその典型と言えよう。

汚職事件で有罪となった元議員の地盤

しかし陳氏が勝利したこの地は、顔氏の父、台湾マフィアの実力者の顔も併せ持つ顔清標氏が長年地盤とし、2002年から議員として活動していた土地だ。家業である土木用砂利ビジネスを中心に事業を拡大。しかし関係者らが脅迫や傷害などの刑事事件が相次ぐ中、政界に進出するも議員在任中に汚職事件で起訴され、2012年に最高法院(最高裁)で有罪が確定した。しかし、翌年の補欠選で子息の顔氏が国民党から出馬し当選する。顔家にとっては地盤を守り抜いた形だが、国民党にとっては地元密着型の、票が読める選挙区となったのだ。このようなことから2020年の選挙で陳氏が当選した際、約20年にわたる顔家の牙城が崩れたとして、マスコミをはじめ多くの人々の間で話題となった。

台中で鉄の結束力を誇った顔家が敗れた理由は何だったのか。最大の要因は、顔家のダークなイメージに嫌気がさし、台湾主体で物事を考える若者、特に外地にいた若者が多数帰郷して投票したからだと言われている。在外投票制度がない台湾では、国政選挙では戸籍地に戻って投票する必要があり、地元に居住していない人々にとっては移動の負担が伴う。そのような中で陳氏は当選したのだ。若くて新しい台湾政治の象徴のような存在だったと言えよう。

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