「コロナ直撃のアパレル」から見える経営のヒント ワールドとアダストリアの財務分析からわかる

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売り上げの減少率を見ると、前述のようにアダストリアの17.3%に対して、ワールドは23.7%と、ワールドの減少率が大きくなっている。両社ともに売り上げ減少の理由は同じ、衣料品および雑貨について企画・デザインから生産、販売までを一貫して行うビジネスモデルをベースにしているのも同じ。それにもかかわらず、売上減少率に違いが出ている。それはなぜだろうか。

売上減少率に違いが出た理由

この理由としては、やや高価格の外出着を扱う傾向が強いワールドのほうが、外出自粛の影響をより大きく受けたことも考えられるが、それに加えて、以下の2点も影響していると考えられる。

・EC化率
・海外売上高比率

1つ目はEC化率(電子商取引を意味するEコマースの全売上高に占める比率)の違いである。アダストリア(2021年2月期)のEC化率は30.6%と、ワールド(2021年3月期)の21.9%と比較して先行しており、また、Eコマースによる売り上げの対前年比増加率も高くなっている。つまり、感染拡大の中でも休業や営業時間短縮の必要はなく、基本的に感染のリスクがないEコマースの比重が高く、またその増加率が高かったことがアダストリアの売上減少率を抑えた1つの要因となっているのだ。EC化率の向上は多くの消費財企業にとっての課題であるが、あらためてこの重要性が新型コロナウイルス感染拡大の中で確認できた事例ということもできる。

2つ目は海外の売上高比率の違いである。アダストリアの2021年2月期の海外売上高比率は5.8%と決して高くはないが、ワールドの0.6%(2021年3月期)と比較すると高い水準となっている。またその中に、感染拡大の影響が比較的少なく、前年に比較して2021年2月期の売り上げが増加した台湾や中国での売り上げが一定比率で含まれている。この感染の影響が少ない地域での事業規模の違いが、売り上げの減少を若干圧縮することにつながっている。

このように、アダストリアのほうが、Eコマースに先行し、また海外、中でも新型コロナウイルスの感染が少なかった台湾や中国といった東アジアでの売り上げが一定水準で含まれており、この2つが売り上げの減少率を抑える効果を生み出していると考えられるのである。

また、このEコマースの拡大は消費財の企業にとって、また海外売上高比率の上昇は多くの日本企業にとって継続した大きな課題となってきたものであるが、この2つの点で先行していることが新型コロナウイルスの感染拡大の中でも、売上減少率の抑制に貢献しているのである。さらに、別の見方をすると、リアル店舗とECといったチャネル、国内と海外、中でも東アジアといった地域の両面でより分散した事業展開をすることが、結果としてリスクヘッジにつながり、売り上げの減少率の抑制につながっているとも考えられる。

次ページ売上総利益率でアダストリアがワールドを逆転
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