「エンタメ」は、ローカル鉄道を救えるか 静岡・大井川鉄道の『トーマス列車』が超人気
すでに同社は、金融機関からの借入金の元金返済の猶予を9月まで受け、島田市など地元自治体へ公的支援を今年2月に要請。翌月からは協議会が開催されているが、難航している模様だ。
地域文化を創造する、樽見鉄道の「鉄道演劇」
「トーマス」とは対照的に、全8回、1回の観客30人、上演時間約1時間というささやかさながら、走る列車内で演じられた演劇公演が、この夏にあった。東京都墨田区に本拠地を置く劇団「シアターキューブリック」による、『樽見鉄道スリーナイン』(7月18~21日)である。
樽見鉄道は、岐阜県の大垣~樽見間34.5キロメートルを走る第三セクター鉄道(元国鉄樽見線)で、そのうち本巣~樽見間を1往復する貸切列車の中で作品が演じられた。
観客は俳優と同じ車両空間に身を置き、目の前で展開される物語を乗り合わせた目撃者として見るという形で、同劇団にとっては、千葉県の銚子電鉄での上演に続いて2回目の試みとなる。列車内での上演は、地域の歴史や文化に根ざした作品を得意のレパートリーとする彼らの、アイデンティティを表現する一つのスタイルとなりつつあるようだ。
私も7月19日に乗車し作品を楽しんだが、制作上、注目すべきことは、この公演が地元の熱烈な劇団のファンの応援によって支えられ、実現したという点。そして、樽見鉄道自体が「共催」として劇団と名を連ね、本巣市の合併10周年記念事業とも位置づけられたなど、鉄道会社と沿線住民が主体的にエンターテイメント作品づくりを行い、成功に導いたことも高く評価したい。
映画やテレビドラマなどと異なり、演劇はその場限りのもの。再演はありえても、再現性はない一期一会のものだ。樽見鉄道にとって、この公演を行う最大のメリットは「団体貸切列車運行による運賃収入」と聞いた(記者会見時の質疑応答より)。
確かにそれは間違いないが、それでも、「演劇を上演し切った誇り」という地域の財産を造ることに参加でき、演じる側、見る側、多くの人が集まったことを、もっと自信に思ってよい。
地元出身者の成功を讃え、成功を収めた作品の応援を受けることは、もちろんあってもいい。けれども、冷たく言えば輸送機械にすぎない鉄道でも、地域文化を自ら創造をすることができると改めて認識できた。樽見鉄道とシアターキューブリックのおかげである。
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