東海道新幹線の「車内販売員」もう一つの重要任務 普段はコーヒーを売るが、緊急事態には大活躍

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コーヒーの味は、季節によってブレンドを変えることもある。現在は「秋の味覚をイメージした」コーヒーを提供中だ。

新幹線車内で人気の「固い」アイスクリーム(撮影:尾形文繁)
車内ではアイスが食べやすくなるスプーンも販売している(撮影:尾形文繁)

固さが話題のアイスクリームはどうだろう。「1日中、人気です。夜もよく売れます」。

固くなる理由は新幹線の車内には冷凍設備がないため。ドライアイスを使って通常の冷凍庫よりも低い温度で保冷しているので、カチカチになってしまうのだという。

カチカチに凍ったアイスクリームが溶けるのを待つのは楽しい時間だが、東京へ向かう客が横浜で買ったり、新大阪へ向かう客が京都で買ったりすると、下車駅までに溶けず、固くて食べられなかったという事態も起きる。そんなこともあって、最近は熱伝導率の高いアルミ素材を使うことで、手から伝わる体温を使ってアイスクリームが食べやすくなる専用のスプーンを売り出している。発売当初は1種類だったが、これも人気が出て現在は5種類のスプーンを販売する。

急病人対応や避難誘導も仕事

東海道新幹線におけるパーサーの仕事は、車内販売だけではない。列車が出発した後の「○○駅に○時に停車します」といった車内放送もパーサーの仕事だ。以前は車掌が行っていたが、現在はパーサーの役割である。大雨や地震で列車が遅れそうなときは、車内放送の回数を増やして、乗客の不安を減らす。

また、車内を巡回していると、「富士山は見えるか」といった質問に出くわすこともある。こうした質問に対しては、富士山付近の通過時刻や当日の雲の状況といった情報を仕入れておき、すぐに答えられるようにしておくという。

さらに急病人への対応、避難誘導、脱出用はしごの設置といった異常時対応も行う。その点では接客サービスと保安業務の両方を行う航空会社のキャビンアテンダント(CA)に近いともいえる。井上さんが、「東海道新幹線のパーサーは接客と車掌業務の両方に関わる」と話したが、まさにそのとおりだった。

井上さん自身は避難誘導を伴う異常事態に遭遇したことはないが、急病人対応の経験はある。あるとき、手洗いのそばに70代の男性が倒れていた。すぐに業務用スマホで車掌と連携して、ほかのパーサーにおしぼりを持ってきてもらった。また、その男性の下車予定の駅に到着するまであと7分しかないことがわかり、すぐに指令所経由で車椅子を手配してもらい、目的の駅で男性を無事下ろすことができた。

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