東海道新幹線の「車内販売員」もう一つの重要任務 普段はコーヒーを売るが、緊急事態には大活躍

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井上さんはアイスクリームや新幹線グッズの販売ランキングでつねに上位を占める“凄腕”パーサーだ。JR東海、JR西日本、JR九州などが接客のブラッシュアップを図ることを目的として毎年開催する「九州・山陽・東海道新幹線合同接客プロ発表会」の出場経験もある。

2017年4月に入社。両親が航空会社、姉は大手私鉄の車掌という”運輸一家”。そんな井上さんにとって、東海道新幹線のパーサーは「両親と姉の仕事の両方にまたがる、夢のような仕事」だった。

乗務初日、最初に売れたのはコーヒーだったと振り返る井上さん(撮影:尾形文繁)

2カ月にわたる研修を経て、6月にパーサーとしてデビュー。研修担当の先輩パーサーといっしょに乗務した。初日は緊張の連続で先輩についてワゴンを押し進めるのが精一杯。最初に売れたのがコーヒーだったことだけは覚えている。

最も思い出深いという失敗談もコーヒーにまつわるものだ。やはり新入社員時代、コーヒーを注ぐ際、ちょっとした拍子にほんの少しだけコーヒーがはねて乗客の衣服に汚れが付いてしまった。自分のミスであることは明らか。丁重に謝罪したら、その人は怒るどころか、「頑張ってね」と優しい言葉をかけてくれた。「泣きたくなるくらいうれしかった」と、井上さんは振り返る。

コーヒー「ライバル対策」はチケット

コーヒーは東海道新幹線の売れ行きナンバーワン商品だが、最近は駅構内にコーヒーチェーンの出店が増えており、ライバルは多い。

コーヒー、菓子類、雑誌などさまざまな商品を搭載したワゴン(撮影:尾形文繁)

JRCPも新幹線の駅改札内などでスターバックスコーヒーの店舗展開を行っているので、同じ社内でもコーヒー販売で競合していることになる。

台頭するライバルへの対抗策として、新幹線のコーヒーもさまざまな手を講じている。その1つがコーヒーチケット。以前は5枚つづりで1350円だったが、現在は4枚つづりで1000円に実質値下げした。通常は1杯320円のコーヒーがチケットなら1杯250円で飲める計算だ。割安さが受けて利用者が増え、「3人に1人はチケットを使っているのではないか」というのが、井上さんの実感である。

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