米Appleを衰退させる「残念な企業文化」の中身

「デザイン至上主義」「トップダウン」はもう限界

アイフォーンの改良と同じように、アップルはこの自動車プロジェクトでも、デザイン担当に重要な決定を任せた。しかしスマートスピーカーと同様、自動運転車をつくるときには自動車の見かけよりも、内部のソフトウェアのほうがずっと重要だ。

ところがデザイン担当は、何がこのプロジェクトにとって最良かを問いかける声を聞かずに、負担ばかり増やすような指示をトップダウンで出して、エンジニアをいらだたせた。

元アップルエンジニアの話では、アップルのサイロ化(情報共有が図れない状態)のせいでプロジェクト・タイタンはさらに難航することになった。同社は機械学習への取り組み方を完全に間違えていたという。

「自動運転システムをやっている人も、顔認識をやっている人もいたが、おたがいに話をすることはできなかった。自分のやっていることを共有できなかったんだ」と彼は話す。

「エンジニア自身のアイデアなんてなかった。いつもそうなんだ。それがアップルの問題だ」

告知したリリース日に間に合わず失望を呼んだスマートスピーカーや、いまだリリース日が決まる状況になくスタッフも減らされた自動車のプロジェクト、この2つには共通点がある。秘密主義とトップダウンでの計画策定という、以前ならアップルの仕事を支えてきた要素が、将来に向けて同社のやり方を革新し直そうとする試みを妨害してしまったことだ。エンジニア思考の欠如は明白である。

プライバシー重視の戦略に未来はあるのか?

プライバシーは、現在ではアップルの広告戦略の一部である。2019年のラスベガスでの国際家電ショーで、アップルは大きな掲示板に「あなたのアイフォーンで起こること、それはあなたのアイフォーンから漏洩しない」というメッセージを掲げた。

プライバシーを強調することで、クックはアップルのiメッセージをフェイスブックのメッセンジャーと、アップルのマップスをグーグルマップスと、アップルのシリをグーグルアシスタントと差別化する。

クックやアップル経営陣は、アップルの大きなイベントでプライバシーに関するメッセージをしつこいほど繰り返す。彼らによれば、アップルのソフトウェアだけを使っていれば、データ漏洩について心配することはないという。

もしアップルが業界に先駆けて体質改善に向けて革新できないのであれば、今後もアップルというブランドの栄光を維持するために、たとえばプライバシーのような何かが必要になるということだろう。

アップル社員へのインタビューを通じても、同社のプライバシーへの傾倒が本物だとよくわかった。アップルは顧客のデータを競合他社のようにいいかげんに扱うことはない。たとえ同社の製品に不利益があってもだ。

「プライバシーという理由で、アップルの開発チームはグーグルやアマゾンの開発チームならアクセスできるようなデータにアクセスさせてもらえない」と、あるホームポッドエンジニアは話した。

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