「新規感染者主義からの脱却」こそ岸田政権のカギ 経済活動の正常化後、「再分配」を中長期目標に

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この「手段の目的化」ともいえる状態から脱却し、欧米のような成長軌道に乗せられるのかどうかが岸田政権に課せられた最初のハードルである。まずは10月1日から完全に解除された行動規制をどこまで持続できるか、つまり、今後は行動規制をかけずに済むか、が政権安定の試金石になる。

そのために必要なことが「新規感染者主義からの脱却」である。新規感染者数と支持率がリンクするような従前のような状況では誰が首相でも政権運営は安定化しない。大げさではなく、退陣表明が2週間遅ければ、感染者数の激減を受けて菅政権は持続していた可能性もある。

感染者数が減ってしばらくすると「減少傾向が鈍化してきた」と言って脅しをかける論調をメディアではよく見かけるが、そもそも傾向は鈍化するものである。「増えたら減るし、減ったら増える」のである。ゼロになることはない。

それでも「第〇波」という脅しに意味があったのは、ワクチンがなく、感染者の増加につれて重症者や死亡者が増える傾向に抑制が利かない局面だったからだが、日本の100万人当たりの死亡者数は先進国でも極めて低い。これ以上何を求めるのだろうか。

戦略ミスで沈み続ける日本経済

本来、そうした冷静な理解を促すために新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下分科会)の助言はあるはずだが、分科会は「人流が減ってないので感染者数も減るはずがない」というロジックに拘泥し、提示される解決案はつねに行動規制だけだ。

本当に「人流抑制が感染終息ひいては経済復活のカギ」だというのであれば、半年前から日常を取り戻し、潜在成長率の2~3倍のスピードで走っている欧米経済の背景には何があり、なぜ日本で同じことをできないのかを仔細に説明する必要があるだろう。

明示的には認めないが、結局、感染者数の増減要因は分科会の専門家もよくわかっていないのだろう。わからないことが悪いわけではない。だが、「わからないものはわからない」と認めたうえで、人流に帰責して経済犠牲を強いるという基本姿勢を改めなければ、分科会の提示する戦略と一緒に日本経済が沈んでしまうし、実際にそうとう沈んできた。

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