JR東海「リニア流域市町会合」で露呈した無策ぶり 解決の糸口「トンネル」要望にお粗末な対応

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前日の19日、川勝知事が「大井川の流量減少対策は“オール静岡”態勢で交渉していく」と発言した矢先だった。田辺市長は、県、流域市町との事前調整を怠った。このため、流域市町は「静岡市だけが抜け駆けで地域振興につなげるのはおかしい」など強く反発した。

リニア工事による環境への影響は、もともとは静岡市が中心となり、他の首長らと連携して、環境省などに適切な対応を取るよう働きかけていた。それだけに、静岡市の“裏切り行為”は、川勝知事はじめ、流域10市町長の強い反発を生んでしまう。その後、リニア工事による流量減少問題に当たる大井川利水関係協議会を設立したが、リニアトンネル建設地を含む源流域を抱える静岡市を外した。川勝知事は、独断専行した田辺市長を事あるごとに厳しく批判、それはそのままJR東海への強い不信感にもつながっている。

鈴木町長は「静岡市の基本合意は白紙に戻すべきだった。利水関係協議会に静岡市も入り、流域全体で考える必要性があった。県全体が1つになってJR東海と交渉すべき」などと訴えてきた。

井川地区の要望に応えるかたちで、JR東海が建設を決めた県道トンネルは昨年半ばに着工予定だったが、すでに1年以上も遅れている。その主な理由は、トンネル建設で発生する大量の残土置き場が確保されていないからだ。

甘かったJR東海の見通し

もともとトンネル建設計画の県道三ツ峰落合線は約35kmもの狭隘区間が続き、約4kmのトンネルを開通させたとしても、約25kmの狭隘区間は解消されない。ほぼ全域が異常気象規制区間に当たり、年平均7回前後の全面通行止めに見舞われる。土砂崩れなどの災害発生で、しばしば1年以上もの通行止めが起きている地域である。

県道トンネルは地域振興に寄与するかもしれないが、はたして、リニア工事車両の安全で安定的な通行を可能にするのか、疑問の声は大きい。

JR東海は、県道トンネル建設という地域振興を提供する代わりに、静岡市が権限を有する林道東俣線の通行許可などを優先、ほかの流域市町との関係を考えなかった。当時、リニア工事による流量減少が大井川流域に及ぼす影響を重大視せず、権限を持つ静岡市との交渉をまとめれば、リニア工事に関連したハードルは低くなり、権限のない流域10市町に“国策的事業”を強調すれば、簡単に理解が得られるとJR東海は、甘く見通していた。

金子社長は、静岡市との基本合意直後、2018年6月29日の会見で、大井川流域市町への説明会を開催する方針を明らかにした。流域市町は、JR東海の呼びかけにそっぽを向いた。JR東海は、流域市町の不信感がどこにあるのかを理解していなかったのだ。それから3年もたって、ようやく意見交換会が開かれた。トンネル残土による大規模な盛り土問題や南アルプスエコパークの保全などほぼすべて静岡市が所管する法律、条例が適用されるのに、今回の意見交換会に静岡市はオブザーバーとしても出席していないのだ。

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