JR東海「リニア流域市町会合」で露呈した無策ぶり 解決の糸口「トンネル」要望にお粗末な対応

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3年前の不信感は拭い切れていない。川勝知事は9月21日の会見で、「地域住民の理解がなければ工事はしないと国交大臣意見、環境大臣意見で言っている。金子社長は同じ問題意識を共有していなかった。何か説明すればわかってもらえると非常になめた感じの見通しを持っていた。(今回の意見交換会で)金子社長も目が覚めたのではないか」など厳しい意見を述べた。

知事は、鈴木町長の閑蔵線トンネル発言を高く評価した。「JR東海は作業をするうえで、安全に井川の奥に行けるよう閑蔵線トンネルを掘ると言っていた。今後のことも含めて掘るべきではないか。県道三ツ峰落合線トンネルはまだ1㎜も掘られていない。3年間放置されている。将来的に南アルプスの自然を楽しみまた保護するためにも、鈴木町長の言われた閑蔵線トンネルをやったらよろしいではないか。地域の理解を得るためにも大事だ」などと述べた。

JR東海がすべきだったことは?

閑蔵線トンネルは以前から何度も話題になっている。

狭隘区間が続く静岡市道閑蔵線(筆者撮影)

鈴木町長の閑蔵線トンネル提案を聞くまでもなく、金子社長も承知していただろう。社内で事前調整したうえで、金子社長は「閑蔵線トンネルはリニア工事を進めるために必要。大井川流域市町の支援を得て、静岡県、静岡市と連携、実現できるか検討したい」などと述べるべきだった。このような発言があれば関係改善が図られ、リニア問題に対する地元の理解に大きな変化が生まれたのではないか。

第12回有識者会議が9月26日、国土交通省で開かれ、リニアトンネル工事による中下流域への影響は非常に低いという中間報告案が示された。委員の1人は、現在の科学的水準・工学的知見の限界を指摘したうえで、どのように地元の信頼を得ていくのか対応すべきだと発言した。

その後の会見で赤羽一嘉国交相(当時)は大井川流域市町長との意見交換会を前向きに評価、「JR東海が、誠意を持って地域住民に向き合うようしっかりと指導する」などと述べた。国交省、JR東海ともに1日でも早いリニア静岡工区の着工を望むのであれば、大井川流域に寄り添う姿勢をきちんとわかる形で示すことが“得策”だ。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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