そういうことがあったからこそ告発者も彼らのもとに行ったんだと思う。スポーツ界の調査報道をきちんとしている媒体だからこそ、きっとこの件に関しても調査報道をしてくれるだろうし、そういう勇気を持っている媒体だと感じたのではないか。
トロンタンたちにとっても、この火災から起きた一連の出来事は国家的な悲劇として受け止めている。国民がこの医療ケアシステムがどうなっているのか、医療界がどうなっているのかを考えているときだったので、道徳的な義務によって切り込まなければと思っていたのだろう。
フィルムメーカーとして両方に踏みこめる
――ナナウ監督自身もジャーナリスト以上にジャーナリストらしく見えました。ジャーナリストたちや、保健相の部屋に入り込んで、こんなところまで見せてくれるのかという驚きがありました。どういうスタンスで取材をしていったのでしょうか。
僕はフィルムメーカーとして、ジャーナリズムの世界と政治の世界の両方の世界に踏み込める有利な立場にあった。ジャーナリストであれば、入ることができなかっただろう。映画を観たジャーナリストたちがすごく驚いていた。省内でこんなことがあったのか、よくここまで撮れたもんだと。
僕のアプローチは100%好奇心。告発者がどういうふうに告発していくのかというプロセスを撮りたい。もちろんフィクションの作品の中で観たことがあるかもしれないが、現実世界では、ジャーナリストたちとどんなやりとりをしているのかあまり見たことがない。同時に、どんなことが起きているのか、可能な限り撮りたいという考えがあった。
例えば作品中に登場する新保健相は政治の外からやってきた人物。そうした人が果たして権力構造に変化をもたらすことができるのか、あるいは既存のシステムの強さにはね返されるのか、こういうことにとても好奇心があった。
純粋なる好奇心と、そして関心を持って見てきたことを映画としてどう昇華させられるか、ということが大事だった。映画をリアルな体験として感じていただくことによって、皆さんの心の中にその映画がとどまるわけですから。
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