乗客は知らない新幹線「パンタグラフ」めぐる憂鬱 JR西、冬の朝のツラい「監視当番」をAIが代行

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パンタグラフ監視カメラは新神戸・岡山・広島の各駅に設置。冬になると博多総合車両所の社員が毎朝、映像をリアルタイムでチェックしていた。

広島駅上りホームの監視カメラ(写真:JR西日本)

「12月から3月にかけて毎日、朝6時から9時の間、あらかじめ決まった列車の停車時間になるとパソコンの画面で映像を確認していました。大きな溶損を発見した場合は、東京の指令に連絡して車両の交換の手配することになります」(西田さん)。

このパンタグラフ溶損専門の監視は、博多総合車両所のさまざまな現場から社員が持ち回りで「前超勤」して担当。60歳を超えるシニア社員は対象としておらず、1人当たりの負担は年々増す傾向だったという。早朝の勤務のため前夜から宿泊することもあった。

AIが本格的に監視業務を担当

日立製作所と共同で開発したAIには、正常・異常、それぞれ多数の画像を学習させた。「正常画像は用意しやすいが、異常画像は少ない。正常画像のすり板に穴が開いたように加工して学習させた」(西田さん)という。十分な精度が確認できたことから、2020年の冬には車両所社員の当番制がなくなって、AIが監視業務を担当する体制に移行した。

かつては当番の車両所の社員が早朝から監視していた(写真:JR西日本)

AIが異常と判断すれば東京指令所にアラートが届き、指令員が画像をチェックする仕組みとなっている。豊岡さんは「早朝に出勤していた分の労力をほかの仕事に回せるようになったほか、列車の交換につながる判断をしなくてはならない担当者の緊張感や心理的負担がなくなった」とメリットを強調する。監視業務の教育に時間を割く必要もなくなった。

パンタグラフに異常が見つかった監視カメラの映像(写真:JR西日本)

JR西日本では2020年6月、博多総合車両所に山陽新幹線データ統括室を設置。走行中の車両から取得したデータを分析し、予知保全につなげる体制を整備した。例えば、車輪踏面が平らになることで生じる乗り心地の悪化も「お客様が不快に感じる前に検知して、車輪を削る作業ができる」(堤さん)という。また、紙帳票だった車両検査での測定値を、タブレット端末を使って電子化、蓄積することで異常の予知に活用するといった仕組みも構築している。

パンタグラフひとつをとってみても、これまではすり板の状態を監視するだけのために、誰かが冬の早朝に出勤してくれていたことになる。普段、客として乗っていると気づくことはない、新幹線の安全運行を支えるメンテ現場の苦労。そのお悩み解決には車両の進化と同様、最新技術が生かされている。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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