乗客は知らない新幹線「パンタグラフ」めぐる憂鬱 JR西、冬の朝のツラい「監視当番」をAIが代行

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新幹線車両の進化とともに改良が加えられてきたパンタグラフ。現役車両を見ても、在来線には見られない特徴があることがわかる。上部の「ホーン」と呼ぶ横に突き出た棒に開けた穴や、側面の2面側壁は騒音を軽減する狙いがある。下部の風防カバーも騒音対策だが、空気の流れを整えて揚力の急な変動を抑える意味もある。

摩耗によって頻繁に交換されるすり板(記者撮影)
最新のN700Sのパンタグラフ(記者撮影)

さらに架線と接触する「すり板」は、在来線では2枚が並んでいるが、新幹線は1枚にして、部品点数削減と軽量化を図っている。このすり板は架線との摩擦によってすり減ってしまう消耗品。東京―博多間を走るような編成の場合、1日の走行距離が3000kmから4000kmに及ぶため、 3日か4日で取り換える必要があるという。

最新のN700Sでは「たわみ式すり板」を採用して架線への追従性を大幅に高め、集電性能の向上と長寿命化による省メンテナンスが図られた。足にあたる支持部を3本から2本に減らすことで、従来のN700Aと比べ1台あたり約50kg軽くなった。

パンタグラフにまつわる“お悩み”

JR西日本ではパンタグラフをめぐって冬場特有の“お悩み”があったが、その解決にAI(人工知能)が一役買っているという。具体的にどういうことなのか、現在は鉄道本部車両部車両設計室担当課長の豊岡誠さんと博多総合車両所車両科(企画担当)係長の堤健太さん、鉄道本部車両部企画課の西田太郎さんに話を聞いた。

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気温の低い冬の日の朝、走行中の電車のパンタグラフから激しい火花とともに「バチバチ」という音が聞こえてくることがあるが、原因となっているのが霜や氷が架線に付着していることで起きるアーク放電という現象だ。場合によってはすり板に穴が開く「溶損」が発生することがある。これを発見するための監視業務が従来、山陽新幹線の車両のメンテナンスを担当する博多総合車両所社員の大きな負担となっていた。

「すり板に穴が開いたまま走り続けると、変形によって架線を押し上げる揚力が強くて架線を切ってしまったり、逆に揚力が弱くなって集電がきちんとできなくなったりする。早く見つけないとその後の輸送トラブルにつながります」(堤さん)。車両側では集電に影響がない限り気づくことが難しいため、駅ホームの監視カメラを使って人の目で確認する必要があった。

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