では、なぜ『テッド・ラッソ』がヒットしたのでしょうか。その理由は明確です。国内外の“ヒット”ドラマに共通する要素が含まれています。1つはキャラクターの成長力にあります。主役のテッド・ラッソはもちろんのこと、仏頂面のベテランのサッカー選手も、冷徹な女チームオーナーも、誰からも名前を憶えてもらえなかった用具係も、メインからサブまでステレオタイプだったそれぞれのキャラクター像が回を重ねるごとに変化していきます。苦手意識や偏見、自分の弱点を克服していくことで、人間味が増していく姿に爽快感すら覚えます。
加えて、音楽や映画のカルチャーネタの使い方も巧みです。例えば、マーティン・スコセッシ監督のオスカー受賞作『ディパーテッド』を上回るベスト作品を言い合うシーンなど、世界で配信されることを前提に作られているため、万国共通でわかるものが多いのです。ニルヴァーナの楽曲が流れ、スパイスガールズも話題に上り、90年代色が強めです。
制作はワーナー・ブラザース・テレビジョンとユニバーサル・テレビジョンの協力のもと、アメリカの4大ネットワークのNBCの元コメディー責任者が立ち上げたドゥーザー・プロダクションが手掛けた安定感もあり。ストーリーの構成力と演技力の活かし方はそんな制作環境から生み出されています。
動画配信サービス時代を決定づけた賞レース
アップル愛用者をターゲットにした単なる「中年男性×サッカー」のドラマに終わらせなかったのは、アップルにとって『テッド・ラッソ』は直営の動画配信サービスApple TV+発のオリジナルドラマとして、何としても実績を作りたかった作品であることも大きかったはず。
Apple TV+は2019年からスタートしたばかりの後発組。世界の動画配信サービスシェアトップを走るNetflixやAmazonと並ぶことを目指すにはオリジナル作品の成功は欠かせません。Netflixもオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード』でその名を轟かせ、Amazonも初期のオリジナル作品の代表例にあるドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』でエミー賞の実績を作っているからです。
結果は想像以上の評価だったでしょう。アップルの『テッド・ラッソ』は新作コメディードラマとしてエミー賞史上最多のノミネート数を記録更新し、最終的に合計7つのエミー賞を獲得しました。アメリカテレビ芸術科学アカデミーが主催するエミー賞で十分すぎる評価を受けました。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら