米英豪の新枠組み「AUKUS」がもたらす波紋の意味 インド太平洋の安全保障秩序は新しい時代へ

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これらの特徴は、必ずしも軍事面での協力だけでなく、情報収集や経済、技術開発など多面的な協力関係を前面に出しているということが挙げられる。次にメンバー国をインド太平洋地域に限定せず、カナダやイギリスも加わっていること、さらにアメリカの力に各国が依存するだけでなく、参加国がそれぞれ役割を分担し、補っている点などを挙げることができる。

かつての米ソ対立と異なり、米中対立は軍事面だけでなく、貿易や投資などの経済、AIや半導体など先端技術開発など多面的なものとなっている。それを反映して従来の軍事同盟という単純なものではなく、より幅広く多様性を持った同盟関係が必要になっているのだ。そういう意味では新たな同盟関係とも言えるだろう。

日本は受動的な対応にとどまる

もちろんこの構想が今後どう展開していくのかは不明だ。この地域で大きな存在となっているASEAN諸国は、生き残り策として「米中いずれの側にも加担せず」という方針を変えておらず、米中間の陣取り合戦の対象になる可能性がある。また米欧対立が続くようなことになれば、イギリス以外の欧州の国をこのスキームに巻き込むことは難しくなる。

そもそも中国がこうしたアメリカの動きを黙ってみているわけはなく、必ず対抗措置を打ち出してくるだろう。早速、16日には環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加盟申請を公表し、揺さぶりをかけてきている。

また、こうした動きに日本がまったく関与しておらず、受動的対応しかしていないことも見逃してはいけない。AUKUS結成について、日本は15日の発表直前にオーストラリアのモリソン首相から菅義偉首相への電話で初めて知った。モリソン首相が気を使って教えてくれたのだが、初耳だった菅首相は応答要領も用意されてなかったこともあって、要領を得ない対応しかできなかったという。

米中対立をめぐって途上国を含めて各国が自国に有利な状況を作ろうと活発に動いているとき、日本政府は新型コロナウイルス問題への対応に大半のエネルギーを費やし、そこに自民党総裁選も加わって「外交空白」が続いている。

その結果、日本政府は動きの速い国際情勢の変化をただ傍観し、アメリカが打ち出した提案や要求を受け入れるだけというのではあまりにも主体性がなさすぎる。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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