米英豪の新枠組み「AUKUS」がもたらす波紋の意味 インド太平洋の安全保障秩序は新しい時代へ

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AUKUSが投げかけた問題は、米欧関係の悪化ではなく、日本も大きく関わるインド太平洋地域の安全保障の秩序が新たな時代を迎えていることだろう。

最近のアメリカの主な動きを見ると、まず6月にイギリス・コーンウォールで開かれたG7サミットの機会を生かして英米豪3カ国の首脳がすでにAUKUSについて協議していた。

8月末にアフガニスタンから撤退。そして、9月9日にはバイデン大統領が中国の習近平国家主席と90分にわたって電話で会談。9月15日にAUKUSを公表し、24日に日本・アメリカ・オーストラリア・インドの4カ国首脳会談(QUAD)を開く予定になっている。

アジアと欧州で異なる冷戦時代の安全保障

これらの日程は明らかに連動している。そこから浮かんでくるのは、長期化必至の米中対立を前に、アメリカは世界中に分散しているアメリカ軍の戦力を可能な限りインド太平洋に集めるとともに、この地域の安全保障の枠組みを従来の2国間中心の同盟関係から、複数の国を束ねたさまざまな性格のグループを作るという新しい安全保障の枠組み形成だ。

冷戦時代、アメリカは欧州とアジアではまったく異なる安全保障の枠組みを形成した。政治体制や経済発展の度合いなど共通点の多い欧州では、多くの国を組み込んだ北大西洋条約機構(NATO)を作り、ソ連に対抗する包括的な体制を構築した。

これに対しアジアの国々は政治体制や経済成長の度合いが大きく異なるうえ、歴史的に国家関係が複雑な国が多く、包括的な枠組みを作ることが困難だった。そこでアメリカは個別に各国と1対1の同盟関係などを作る「ハブ&スポークス」と呼ばれる体制を作って東側と向き合った。

AUKUSが浮かび上がらせたのは、アメリカのインド太平洋地域の戦略が、これまでのハブ&スポークスから、アメリカを中心とする数カ国の国家集団の形成への転換だろう。

具体的にはAUKUS以外にすでに「QUAD」、「ファイブアイズ」(英米、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)、「日米韓」などが存在している。

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