米英豪の新枠組み「AUKUS」がもたらす波紋の意味

インド太平洋の安全保障秩序は新しい時代へ

一方で約4兆円規模の潜水艦建造の契約をいきなり反故にされたフランスが激しく反発するのも当然のことだ。マクロン大統領やルドリアン外相らが「残忍な決定」などと非難し、アメリカやオーストラリアから大使を召還してしまった。標的とされた中国以上に厳しい対応をしている。

欧州にはアメリカが自分たちの反対を押し切って8月末にアフガニスタンから強引に撤兵したことへの反発が尾を引いていた。ところが間の悪いことに、「AUKUS」が公表された同じ日、EUのフォンデアライエン欧州委員長は欧州議会で今後1年間の施政方針についての演説をして、欧州が自律的かつ自主的な政策を展開できるよう「欧州防衛連合」を構築すべきという提案をした。

さらに翌16日にはEUの「インド太平洋地域に関する戦略」が公表された。中国を意識して、この地域におけるEUの存在感を高めるため、台湾と通商交渉を進めたり、海路の確保に向け船舶の配備を増加させる方針を示したのだ。苦労してまとめ上げたこうした方針は、AUKUSの前に注目されることはなかった。

長い歴史を持つアメリカとフランスの対立

今回もアメリカに無視されたEUのボレル外交安全保障上級代表(外相)は「後ろから刺された。一方的で容赦のない決定はトランプ前大統領とそっくりだ」などとアメリカを激しく批判している。

こうした動きに米欧関係がトランプ大統領の時以上に悪化するのではないかという懸念が広がっている。しかし、アメリカとフランスの対立は今に始まったことではない。歴史を振り返るとフランスは今日に至るまで長くイギリスと対立し、戦後はアメリカの圧倒的な力に対抗して独自性を主張してきた。

1966年、ドゴール大統領は英米主導に反発してNATOの軍事部門から脱退しフランス軍を撤退させた。復帰したのはサルコジ大統領の時代の2009年だった。また2003年、アメリカのブッシュ大統領によるイラク戦争にドイツと組んで強く反対し、安保理理事会での拒否権発動さえちらつかせた。アメリカのラムズフェルド国防長官は当時、ドイツとフランスを「古くさい欧州だ」と批判すると、独仏側が「アメリカは傲慢だ」と言い返すなど激しい応酬が続いた。

今回もフランスの識者からは「アングロサクソン人の世界はフランスとは別だ」などという声が出ており、この対立には根が深いものがある。

だからと言って、アメリカと欧州が決定的に対立したことはない。欧州からすればアメリカの軍事力抜きでロシアに対抗できないことは明らかであり、押したり引いたりを繰り返して生き延びてきた。今回も時間がたてば、元のさやに戻るのではなかろうか。

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