高額でも人気、鉄道イベント「有料化」は広がるか マニアックな内容でファン増やし、利益も生む

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今年6月、西武鉄道は長年続く「西武・電車フェスタ2021 in 武蔵丘車両検修場」を開催した。昨年はコロナ禍で開けなかったが、今年は入場最大5000人の事前申込制として実施した。

西武鉄道の「西武・電車フェスタ2021 in 武蔵丘車両検修場」の様子。事前申込制で来場者数を絞って開催した(筆者撮影)

入場者数は絞ったものの、参加費は無料だった。西武鉄道によると、利用者や沿線住民をはじめとする人たちに電車に親しんでもらい、事業に理解を深めてもらうために無料としたとのことだ。ただ、このイベントではレストラン列車の「52席の至福」を利用したカフェや、会場に直接乗り入れるツアー列車は有料だった。

西武はこのように申込制とすることで「密」を回避し、無料の大規模イベントを開催したが、以前から事前応募制である東京メトロの「メトロファミリーパーク in AYASE」は昨年に引き続き、今年も中止となった。これは例年開催してきた綾瀬車両基地の公開で、応募制だが従来の例でいえば参加可能人数は1万5000人と多い。それでも数倍の申込があったといい、人気は高い。

東京メトロに今後の開催について尋ねたところ、「当社におけるイベントについては、コロナ禍における実施の在り方について現在検討を進めています」といい、「各イベントの趣旨や目的をふまえ、それぞれ開催方法や有料化について慎重に検討してまいります」とのことだった。コロナ禍の収束が見えない中、人気の高い無料イベントを継続するか、あるいは何らかの別の形にするか、鉄道各社にとっては悩みどころだろう。

ファンサービスと利益を両立

鉄道イベントの有料化は、コロナ禍の中で少しでも増収を図るという狙いもあるだろうが、その内容を見ると、鉄道各社が自社の持つ車両や設備などのコンテンツとしての魅力や価値を改めて認識したからと考えることができる。一般客の関心が薄くても、鉄道ファンにとっては価値が高いというものは多い。マニアックな内容の企画とすることで、イベントがファンを対象とした「商品」になりうることが証明されてきたといえるだろう。

沿線住民や利用者サービスとしての無料イベントは、実際に取材すると鉄道会社の負担は相当なものであろうと感じる。物販などに力が入るのはそのためでもある。

そんな中、ファンサービスとなり利益も生む有料イベントは1つの選択肢である。高いと感じられる金額の設定も、そのために動かす人や車両、設備などを考慮すれば妥当と考えられるだろう。内容を充実させて有料化するという動きは、今後も広がっていくのではないか。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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