3気筒エンジンの可能性、各メーカーの現在と未来 走りと快適性、各メーカーで異なる設計思想

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ヤリスの走行イメージ(写真:トヨタ自動車)

ヤリスのガソリンエンジン車にはバランスシャフトが採用され、これで直列3気筒エンジン特有の振動や騒音を抑える対策としている。しかし、それでも全体的には直列3気筒エンジン的な振動や騒音は残り、快適性という側面において、過給機やモーター駆動を併用する他社とは異なる印象がある。また、トヨタは近年アイドリングストップをやめており、停車してもエンジンが回り続けることにより、振動や騒音に意識を向かせてしまうことも影響しているかもしれない。

ダイナミックフォースエンジンは、燃費と動力性能を両立したエンジン本来の醍醐味を主目的としており、快適性ではやや劣るのではないだろうか。

HV(ハイブリッド)にも、同じく直列3気筒エンジンを搭載するが、こちらはバランスシャフトを使っていないという。一方で、モーターを装備するので、その補助は得られる。しかし、トヨタのハイブリッドシステムは、エンジンとモーターの両方を併用して燃費を向上することが第一の目的であり、日産のe-POWERのような発電専用と違い、エンジンの使用回転領域が広く、振動や騒音をより感じやすい可能性がある。

併せて、熱効率を40%以上とするため、高圧縮比や吸気の渦効果などを積極的に活用し、ミラーサイクルを利用するが、燃焼音の大きさは従来に比べ大きくなっている。この点はHV用の直列4気筒エンジンも同様で、カムリの開発責任者は前型に比べ騒音が大きくなったことを認めている。

設計思想が異なる多彩な3気筒エンジンの未来

7月19日にデビューしたばかりの新型アクア(写真:トヨタ自動車)

トヨタにはトヨタの考えがあると思う。しかし、ガソリンエンジンの効率向上や、エンジンらしさを強調するあまり、快適性の面で行き届かないところがあるのではないかという気がする。

新型アクアで採用されたバイポーラ型ニッケル水素電池(写真:トヨタ自動車)

一方、新開発のバイポーラ型ニッケル水素バッテリーを使う「新型アクア」は、直列3気筒エンジンの振動や騒音をほとんど感じさせない。バッテリー出力を約2倍とした新バッテリーの採用により、モーター走行領域が増えたことで、あまりエンジンに頼らない走り方が快適性の向上に役立ち、ヤリスHVとは違ったアクアの存在意義を高めているといえるだろう。

直列3気筒エンジンといっても、これほど多彩な特性を提供する。その使い道は、車両開発者がどのような商品性を目指すかによって左右されるといえそうだ。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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