コロナ対策で失策した日本「その戦犯」の正体 政府の対応はなぜのろく、生ぬるいのか

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財務省も悪気があって支出を渋っているわけではない。二言目には財政黒字化の必要性を叫ぶ財務省ですら、実際には一般会計の歳出約107兆円の約41%を国債発行で調達しているのが実情だ。

今回のコロナ禍で病床も医師も不足する足りないづくしになったのは、戦後、結核を撲滅したからといって感染症に対処する体制、つまり隔離病棟や全国の保健所をミニマムにまで縮小してきたためだ。

その犯人は予算を削った財務省と言いたくなるのだが、それもまた財務省には酷な話だと思う。筆者も、膨れ上がる一方の医療費を賄うためには不要な歳出の整理が必要だと思っていたし、それは日本の社会がほぼ一致して認めてきたところだろう。

「一億総ざんげ」するしかないのか?

となると、お粗末なコロナ対策に特定の犯人はおらず、社会全体の責任、一億総ざんげすべし、ということになる。だが、それではらちが明かない。今の体制の中で変えられるところを早急に変えていくのが、政府の腕の見せどころなのだ。

例えば、感染症病棟や集中治療病床に瞬時に衣替えできる医療施設を確保する、機器購入など必要な費用に助成金を出す、などだ。

ニュースを見ていると、保健所が患者や病院との連絡で修羅場になっているが、「有事」に保健所の人員を速やかに確保するためには、医師・看護師・職員のOBを「予備役」としてプールしておく。そして開業医も有事の「予備役」としてネットワーク化しておく。平時の患者を周囲の病院にカルテ付きで委任して、開業医自身は大病院で感染症患者の診療に当たれるように研修もしておく。

これらはすでに一部着手されているが、そこまでくるのに1年以上もかかっている。このスピード感のなさ……。だからやっぱり「悪いのは政府!」だろうか。

河東哲夫/外交評論家。1947年、東京生まれ。外務省入省後、ソ連・ロシア3回、計11年、西ドイツ・ボン、スウェーデン、ボストン総領事、在ロシア大使館公使、在ウズベキスタン・タジキスタン大使を歴任。またハーバード大学、モスクワ大学に留学。2004年、外務省退官。日本政策投資銀行設備投資研究所上席主任研究員となり評論活動開始。東京大学客員教授、早稲田大学客員教授、東京財団上席研究員など歴任。
「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

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