デヴィッド・ボウイ流「自分を進化させる」思考 マドンナ、レディー・ガガに影響を与えた生き方
彼が常に変貌を遂げたのは、自分のアイデンティティを混同していたせいだろうか。都合よく新たな観客を発掘するためだったのだろうか。
そうではない。彼は自分を深く知り抜きそれを示していたのだと誰もが思っている。自分が何者であるかを知り、自分の強さと限界を知り、アーティストとしてのビジョンを信じそれを懸命に追求したのだと。彼は本当の自分を知り、それがみんなにも伝わっていたのだ。
マドンナの証言
ボウイがロックの殿堂入りを果たしたとき、マドンナは壇上で彼に賞を渡し、父親の目を盗んでボウイのコンサートに行ったときのことをこう振り返った。
「2時間呼吸が止まっていたかと思うほど興奮した。これまで見た中でも最高のショーだったの。音楽はもちろん、お芝居も素晴らしかったし」
「......常識を超えていて、理屈を度外視したステージで私の心を揺さぶった。帰宅した私は見ての通りこんなに変わったわ。寝ずに起きていた父は私がどこに行ったのかもお見通しで、おかげであの夏はずっと家から出られなくなってしまった。でもそこまでしてでも見に行く価値があったってこと」
それ以降、マドンナはカメレオンのようにキャリアを変えていく。ディスコのディーバ、バブルガム・ポップのパンク、大衆に仕えるメイド、カバラの導師といろんなキャラクターに扮してスポットライトを浴び、セクシーであることや女性であること、そして最近では年齢に対する常識に異論を唱えた。2019年のアルバム『マダムX』のリリースと共に、60歳になった彼女はオールシアター・ ツアーと銘打って北米とヨーロッパを回り、アルバムは『ビルボード』誌で初登場1位を獲得するのだった。
ボウイが亡くなった日、彼女はフェイスブックにこう投稿した。「デヴィッド・ボウイは私の人生を変えた。彼はロックンロールというステージでキャラクターを生み出し様々なアートフォームを駆使して、エンターテインメントにつなげた。彼はインスピレーション豊かで革命的な人。独特で刺激的、本物の天才だった」。
レディー・ガガことステファニー・ジャーマノッタもまた、10代の頃からボウイに心酔していた。初のミュージック・ビデオで、彼女はボウイの有名なアラジン・セインのキャラクターを真似て顔に稲妻の化粧を施してリスペクトを示した。それ以降ボウイをマネて次々と派手な恰好をしてキャラクターを変えていく。
グラミー賞では72時間で孵化するという設定でプラスチック製の巨大な卵から登場し、「ボーン・ ディス・ウェイ」を歌った。生肉のドレスを着てMTVのミュージック・アウォードに出演したり、 SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)ではいわゆるボミット(訳注:口にふくんだ液体を衣装に吐き出す)アーティストと共演した。そうかと思うとオーソドックスなパフォーマンスもこなす。グラミー賞やオスカーを受賞し、スーパーボウルでは保守的なパンツスーツで国家を歌ったのがいい例だ。彼女は自分のステージを知り、ファンの動向を探り、状況に応じてアーティストとして表現する。