マレーシア航空、倒産回避でも“茨の道” 機体失踪、撃墜と不幸な航空会社を蝕む病巣

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マレーシア航空は政治家との深いつながりも問題視されている

だがアジズ氏は、マレーシア航空の場合、「ファイアフライ(格安航空部門)やMASエンジニアリング(メンテナンス部門)などの黒字化は可能性があるが、人員削減や不採算路線廃止は困難」と分析。「不採算路線を廃止しても、肝心の保有機の多くがローン付きや第三者との共同購入だ。JALのように売却が一筋縄ではいかない」(同)と見通す。

大手銀行であるRHBの著名アナリストも、「マレーシアは日本のような企業文化がない。規則正しく、規律を重んじ、実行できるかは疑問だ」と、JALをお手本にするのには否定的である。資産売却は限定的で、焦点は「高コスト体質からの脱却であり、人員削減が最大の争点」(同)。「社員の半減が理想だが、20%カットでも4億2000万リンギ(約134億円)が削減可能」と見ている。一方で、「労働組合は経営陣が刷新されれば、経営改革に協力する」というが、「優先事項は社員の福利厚生とも主張し、人員削減などの再建計画が具体化すれば反対する」(同)とみられ、再建策の行く末には、イエローカードがすでにちらついている。

100%株主となるカザナ・ナショナルも、「財務・人事全てにおいて、ナショナル・フラッグを関係者全員の協力で立て直すことが求められる」と、名指しは避けたが、長年の労使対立が招いた高コスト体質による累積赤字削減を急務としている。しかし、マレーシア航空の社員2万人が関わる労組は、政府与党の票田であり、政権の命綱なのだ。「42もの労組」(アジズ氏)が存在しており、労組による支持獲得は経営再建には不可欠である。ただその労組は11年、エアアジアが20%出資で合理化に乗り出したことに猛反発し、上場企業同士の資本提携を政府に介入させ、解消させるという、異例の事態を招いた。

社員にバラ撒き、改革はどこへ

そんな中、マレーシア政府も「聖域なき改革」と明言しながら、全社員に1人当たり2000リンギ(6万4000円)、合計約12億5000万円の報奨金を近く支給することが分かった。政府が了承の上、ユソフ会長による英断だが、政治家の意向や利権が温床される企業文化の撤廃こそ、実は経営改革の根幹とすべきなのである。それがこうしたバラ撒きを受け、「政府が本気で改革に乗り出すかは不透明」(欧米シンクタンク)、といった見方も浮上している。

政治と関わってきたマレーシア航空の歴史そのものも奇異だ。過去に国営、民営を繰り返し、マハティール氏が首相を務めていた80年代から00年代初頭にかけて、同氏と関係の深い実業家ラムリ氏にマレーシア航空を買収させ、黒字経営が赤字に転化したとたん、再度ラムリ氏から買収、国有化し直した経緯がある。しかも、当時の市場価格 3.68リンギの2倍以上で買い、ラムリ氏の損失を回避したというおまけつきだった。

一部株主は6月の株主総会で、「JALの例からも、破綻処理が得策」と主張したが、結局は完全国有化も実質的な時間稼ぎで、「歴史の繰り返し」(アナリストのラム氏)とする失望感も広がる。果たして「国家の誇り」(ナジブ首相)である、マレーシア航空を守れるのか。財務相兼務で実質的“経営者”である、ナジブ首相の力量が試されている。

(撮影:尾形文繁)

末永 恵 ジャーナリスト

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すえながめぐみ

マレーシア在住ジャーナリスト。マレーシア外国特派員記者クラブに所属。米国留学(米政府奨学金取得)後、産経新聞社入社。東京本社外信部、経済部記者として経済産業省、外務省、農水省などの記者クラブなどに所属。その後、独立しフリージャーナリストに。取材活動のほか、大阪大学特任准教授、マラヤ大学客員教授も歴任。

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