五輪経済効果「ここまでアテが外れた」残念な総括 「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」

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過去の開催国のインバウンドが増加したのは五輪で世界中から観戦客が訪れてよい体験をして、その口コミで開催年以降もリピーターや口コミによる観光客増効果が長く続くというメカニズムでした。一方で今回の東京五輪は、海外からの観光客をシャットアウトして無観客開催の決断をせざるをえませんでした。

その結果、オリンピックの訪日需要が失われただけではなく、2022年以降、たとえアフターコロナでインバウンドが回復したとしても、少なくとも五輪効果の口コミによる観光客増大効果は得られないことになります。つまり12.9兆円と試算されたインバウンド増大効果は取らぬ狸の皮算用で終わったと考えるべきでしょう。

さて、マクロでの収支も検証してみましょう。みずほFGのレポートによれば東京五輪招致以前の日本のGDP平均成長率は1.1%でした。これが五輪による押し上げ効果で2016年以降は平均で1.4%に増えることが予測されていました。その増分の累計が30兆円近くになることでGDPを見れば五輪の経済効果が実際に確認できるとされていました。

ところが実際には2016年以降の経済成長率を見ると順番に、年率の実質経済成長率は0.8%、1.7%、0.6%、0.0%、▲4.6%という結果でそれまでの平均1.1%よりも見劣りします。押し上げが想定された1.4%を超えた年は2017年だけ。残念ながら東京五輪の経済押し上げ効果はマクロ経済全体でみれば確認できません。建設ラッシュはGDPを押し上げた一方で、消費増税とコロナでトータルの景気は水を差された結果です。

結果をまとめてみれば、東京五輪招致の経済効果は開催前のインフラ整備分までは実際に日本経済を潤してくれました。2020年はコロナで1年お休み。2021年の開催では1兆円の赤字が発生し、2021年以降に期待されたインバウンド増大効果は幻に終わったというのが総括です。

2020年度税収は過去最高だった

最後に1兆円の赤字補填を財務省は認めるでしょうか? 

そして財務省は新型コロナで大幅な税収減を想定していたのですが、今年7月5日に発表があったとおり、2020年度の一般会計税収は60.8兆円で予想よりも5.7兆円も多くなりました。1兆円の補填など気にする必要がない税収環境とはいえます。

こうしてまとめてみることでこの夏、野球、柔道、スケボー、ソフトボール、競泳など金メダルラッシュに沸いたあの日々を思い浮かべる私の気持ちに読者の皆さんも共感していただけるのではないでしょうか。やはり今回の東京五輪は、

「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」

だったのでした。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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