日立、仏タレス「鉄道信号事業」買収の全舞台裏 MaaS展開拡大へ「料金収受システム」にも着目
タレスは今年に入って、関心がありそうな世界の鉄道メーカー各社に声をかけ、競争入札を行った。7月7日のロイター通信は、「タレスは交渉相手を日立、スイスのシュタッドラー、スペインのカフ(CAF)の3社に絞った」と報じた。最終的に日立が競り勝った。
「交通システム事業の長期的な発展のため、最高のパートナーを選んだ。この決断は顧客、従業員、株主の皆様に大きな価値をもたらす」と、タレス社戦略・R&D担当上級副社長のフィリップ・キーヤー氏はコメントする。顧客や従業員について触れていることからわかるとおり、売却価格もさることながら、売却後に事業をどのように存続させるかも検討材料の一つだったことがわかる。
タレスの交通システム事業のうち、売上面で大きいのは幹線鉄道向けの信号システムだが、近年、都市鉄道で普及が進む無線式列車制御システム(CBTC)は世界各国の40を超える都市の鉄道で採用されている。2013年にはJR東日本から常磐緩行線・綾瀬―取手間のCBTC設計メーカーとして選定された。費用面や導入後の保守を誰が担うのかといった問題から、結局タレス製品の導入は見送られ、JR東日本が開発したCBTC「ATACS(アタックス)」が採用されたが、一度はJR東日本が海外メーカーを選んだという事実は、国内の業界を震撼させた。
MaaS事業展開を加速
さらに日立が注目しているのは、タレス社の料金収受システムである。鉄道のスマホ決済から高速道路の電子通行料金決済システム(ETC)まで、これまで日立が手薄だった分野でもあり、日立グループの経営資源とタレスの技術をかけ合わせ、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)での事業展開を拡大させる。
これまで人の目と手を介して行われてきた保守作業も、最近はデジタル技術を駆使して不調を事前に察知して保守を行うという予防保全(CBM)に置き換わりつつある。タレスはCBMにも強みを持ち、日立が持つIoT技術と組み合わせることで、その技術はより強固なものとなる。
日立はタレスの交通事業の事業価値を16.6億ユーロ(約2154億円)と算定し、この金額をベースとしてさまざまな調整を行った後に最終的な買収価格を決める。買収資金は、「まだ決まっていないが、手元資金と借り入れでまかなうことになりそう」(加藤知巳グループ財務戦略本部長)。
契約締結は2022年度後半。1年以上先となるが、「さまざまな地域で規制をクリアする必要がある」(ドーマー副社長)。日立とタレスの鉄道信号ビジネスを合算することで現地の独占禁止法に抵触しないかといった点をチェックするためにはこのくらいの時間がかかるのかもしれない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら