院生時代に「意気投合して」いたから、真理子さんは「友達みたいにお互い協力して結婚生活を送るもの」と予想していた。子どもは「いたら楽しそう」と思っていたし、夫も欲しがったため結婚後数年で出産。結婚・出産後に初めて「男女で役割が決まっている」ことに気づいた。「おかしくない?」と問いただす真理子さんと「しょうがない」と答える夫の会話はいつも平行線をたどった。
同業者なのに、「夫だけ遅く帰宅」というモヤモヤ
ここで一つ、補足しておくべきなのは、真理子さんの家事能力が相当高いということ。取り分け料理上手であることを、しっかり書いておく必要がある。フルタイムで忙しく働いていても、ちゃちゃっと美味しそうなものを作ってしまう。なぜそんなことが分かるかというと、twitterにさらっと書いてあるためだ。短い言葉でさりげなく書かれているところに、これが彼女にとって当たり前であることが伝わってくる。
料理が「僕より上手いから作って」という夫の考えは分かるものの、真理子さんが受け入れがたかったのは、夫の帰宅時間が全く分からなかったこと。「何時に帰ってくる?」とメールを送っても返事がない。「さみしがり」だからと伝えて言っても伝わらない。24時間働く業界の夫は翌朝5時に帰宅することもざらだった。「なんで?」と聞くと「しょうがない」と答える。その繰り返しが続いた。
この時期、真理子さんが、もやもやしたのは、夫の帰宅時間だけが理由ではない。彼女もまた、夫と同じ職種、つまり研究者だったのだ。勤務先こそ企業と大学で異なるが「同じ職種なのに、私だけが育児などを全部やっていたので、時間制約なく仕事をする夫に嫉妬していたと思います」。
結婚・出産までは対等という夫婦の多くが、同じ課題に直面する。夫は夜中でも働き出張し、妻は定時か時短で帰って家のことを全部やる。学歴も職歴も同じはずが、だんだんと差がついていく。キャリアより子ども優先にしたい、と思っている女性でも、こういう状況で、もやもやを抱える人は少なくない。
真理子さんの、まさかの決断
この後の真理子さんの行動と選択は、同じ状況に置かれた女性とだいぶ違う。彼女はもやもやし続けることなく、かといって諦めることもなかった。どうしたか、というと、転職をした。1歳の子どもを育て、ひとりで家事をこなしながら。
きっかけは女性技術者の会。ここで弁理士の話を聞いたのが転機になった。もともと研究を生かしたい、社会に役立てたい、と漠然と希望していた真理子さんにとって、発明の内容を理解し文書にするという弁理士の仕事内容は「こんな仕事があったんだ!」と感動的にすら思えた。
さっそく、話にきた講師の所属する弁理士事務所をグーグルで検索すると、タイミング良いことに、人を募集していた……。さっそく連絡をしてみると、現在、真理子さんの上司にあたる人が、もう1人、女性弁理士を連れてきてくれて一緒に食事をすることになったという 。上司は3児の母。専門職にも事務職にも女性が多く、全体の3~4割が女性という環境は「雰囲気が良さそう」に思え、転職はスムーズに決まっていた。
新しく、やりたい仕事についた真理子さんは「ストレスが減り、通勤も近くなり、気持ちのゆとりができた」と振り返る。すでに理系の博士号を持っていた真理子さんだが、より自立的に裁量をもって仕事ができるよう、弁理士資格を取ることに決めた。
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