縄張り越えた「観光列車レンタル」新潮流になるか 東急に続くか、オフシーズンに「他社貸し出し」

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雪月花を貸し出す際には、東急方式でトキ鉄が車内サービスも行うのか、あるいはJR東日本方式で車両だけ貸し出すのか。どちらにせよ、自社で豪華な観光列車を造るだけの資金がない鉄道会社にとっては朗報だし、トキ鉄にとっても新たな収入源となる。雪月花の知名度が各地に広がるというPR効果も期待できる。

遠方の鉄道会社から雪月花を貸してほしいという引き合いはまだないが、もし1社でもそういう動きが出てくれば、堰を切ったように車両レンタルの動きが活発になるのではないだろうか。

雪月花と同じく川西氏がデザインした、JR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS(ウエストエクスプレス)銀河」もJR西日本エリアを飛び出して四国に乗り入れる構想があるという。JR西日本の広報担当者は、「まだ検討中。会社として何かお話しできる段階にはない」というが、同社が岡山エリアで運行する観光列車「La Malle de Bois(ラ・マル・ド・ボァ)」は、2017年から瀬戸大橋を渡って四国にも乗り入れている。四国の鉄道は非電化区間が多いが、銀河は電車なのでどこでも走れるというわけにはいかないが、ラ・マル・ド・ボァが乗り入れる多度津―琴平間のような電化区間なら運行は可能だ。

デザイナー「想定外の路線運行面白い」

川西氏は、「雪月花も銀河も、それぞれの車窓や地域特定に合わせて設計している」と、新たな路線を走ることは想定していなかった。そのうえで、「デザイナーとしては、“想定外の路線”も面白く、大変興味深い」とコメントする。

「雪月花」や「WEST EXPRESS 銀河」をデザインした川西康之氏(記者撮影)

観光列車の魅力とは、車両の魅力だけではない。車窓、飲食、さらに地域の人たちのおもてなし、これらが一体となって観光列車の旅を魅力的なものにする。その意味では、もし雪月花が新たな地域を走るのであれば、その地域の人たちが雪月花を使ってどのようなおもてなしをするかという創意工夫が欠かせない。

川西氏は、銀河が山陰、山陽、紀南と新たなコースに乗り入れる都度、それぞれの地域の乗務員に車両コンセプトを伝え、デザイナーの立場から「こんな案内やコミュニケーションを取ってほしい」と提案してきた。新たな車両で新たなおもてなしのあり方を追求することは、日本のおもてなし力の足腰を強靭にするはずだ。

各社自慢の観光列車が別の地域を走るような光景が日常的になったら面白い。会社間の垣根を越えた観光列車の競演をぜひ見てみたい。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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