髙村薫「日本の鶏生育環境はNOを突き付けられる」 家畜の尊厳をめぐる国際的で戦略的な議論を
数百万羽の鶏が処分されても卵流通は揺るがず
(『サンデー毎日』2021年3月14日号より)
昨年11月5日に香川県の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されて以降、九州・中国地方・近畿から関東へと感染は広がり続け、今年2月15日現在、被害は50の養鶏場及びあひる農場に及んでいる。毎日の食卓に上らない日はない卵の話なのに、連日のコロナ報道にすっかり紛れてしまったかたちである。
野鳥や小動物を介して運ばれるウイルスは、養鶏場の広大な建物のさまざまな隙間から侵入し、ひとたび感染が確認されると、防疫のために飼育されている全個体が一気に殺処分され、周辺の養鶏場も卵の移動が制限される。
この3カ月半で言えば数百万羽の鶏が処分されたが、スーパーにはふだんと変わらず安価な卵が豊富に並んでいるので、卵の生産量全体のなかではさほど大きな数ではないのかもしれない。だとすれば、それこそ日本で一般的なバタリーケージ(ワイヤーでできたカゴを何段も積み重ねて収容する)が可能にした大量生産システムの威力であり、業者がケージにあいた穴などを放置してウイルスの感染被害に遭っても、直ちに死活問題に至るわけではない、すさまじい生産能力の証でもあるだろう。
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