どこが復興五輪?「被災者は今も放置」残酷な現実 コロナだけでなく原子力緊急事態宣言も発令中

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南相馬市で3つの仕事を掛け持ちしながら中学生の子どもを育ててきた50代の女性は「収入が減り、これで医療費が打ち切られたらカウンセリングにも通院できなくなります」と訴える。コロナ禍で最近、収入源が1つなくなった。コロナの感染予防のための時短要請で、飲食店が営業を縮小してしまったからだ。

この女性は「周囲にもうつやPTSDになっている人が多いです。政府は人間を人間としてみていないですね。殺したいんでしょうか。原発事故に続いて、また棄民です」と話す。

40代男性は事故後、妻と娘と共に新潟県へ避難した。5年前、避難先で妻が突然「息苦しい」と倒れて急死。娘はまだ小学生だった。男性は一人で子育てをしながら、カウンセリングを受け続けている。「医療費打ち切りはきついです。病院に毎月かかっていますから。睡眠薬も出してもらっています。切られたら、ほんと、どうしよう…」

東京五輪は3兆円超、復興予算は激減へ

今年6月下旬、東京五輪の開幕まで1カ月というタイミングで、筆者は浪江町の帰還困難区域を訪れた。居住が禁じられている区域だ。一部エリアでは今も除染が行われている。

10年以上も無人が続き、どの家も木や背の高い草に覆われてしまった。どんな建物だったのか、見当もつかない家も目立つ。2階までツタや木に覆われた木造家屋もあった。家々には銀色のバリケード。そこには黒地に白い字で「内閣府」と印字されたラベルが貼ってある。

大会組織委員会が2020年12月に公表した数字によると、東京五輪の予算は1兆6440億円にもなる。国や都の「関連経費」を合わせると、全体では3兆円を超えるという(2020年12月23日付朝日新聞)。

かたや「復興五輪」の“地元”である被災地向けの予算は大幅に削られていく。政府の復興予算は、2021年度からの5年間で計1兆6000億円になる見込みだ。2020年度までの5年間では計6兆5000億円だったから、約4分の1に激減することになる。

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、福島市で7月28日に開幕する野球で始球式を行う予定だ。氏は共同通信のインタビューで、東日本大震災の被災地での開催は「甚大な被害を受けた町や地域の復興を示すことになる」と語っている。フレコンバッグの集積場などを見ることもなく、避難者の肉声を聞くこともなく、「復興」を口にし、駆け足で福島を去っていくのだろう。

6月下旬の浪江町。帰還困難区域で通行止めになっているところが今もある(筆者撮影)
帰還困難区域内の人が住めなくなった家には木が生い茂っていた(筆者撮影)
青木 美希 ジャーナリスト

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あおき みき / Miki Aoki

札幌市出身。北海タイムス(休刊)、北海道新聞を経て全国紙に勤務。東日本大震災の発生当初から被災地で現場取材を続けている。「警察裏金問題」、原発事故を検証する企画「プロメテウスの罠」、「手抜き除染」報道でそれぞれ取材班で新聞協会賞を受賞した。著書「地図から消される街」(講談社現代新書)で貧困ジャーナリズム大賞、日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞など受賞。近著に「いないことにされる私たち」(朝日新聞出版)

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