有楽町線延伸や品川地下鉄…「新線構想」の現在地 メトロ株売却とともに「早期事業化図るべき」

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同区は2019~2020年度、新たな需要予測などを含む検討調査を実施し、今年6月に公表。「近年の急速な地域の発展やTXとの乗り入れを含め検討した」(中央区の担当者)内容だ。同区が事務局を務める新線推進協議会が2020年11月に開いた「新線推進大会」にはTXの利用・建設促進議員連盟会長が登壇し、連携を訴えた。区はTXの東京延伸を求める同線沿線の自治体などとも事務レベルで情報交換しているという。

2020年11月に開いた臨海地下鉄新線の推進大会(記者撮影)

また、区は今年発表した調査結果で、JRの羽田空港アクセス線臨海部ルート計画を念頭に「りんかい線と接続し、羽田空港までの直通運転も考えられる」との考えを示しており、今年度は羽田空港方面への需要予測を行っているという。

ただ、事業費は秋葉原まで延伸した場合で3310億円と、ほかの2線と比べても高額で、事業主体についても課題だ。一方、小池都知事は答申後の赤羽国交相との会談で、臨海部地下鉄の事業計画策定に向けた検討会を設けるとの考えを示しており、区の担当者は「そこに大きな期待をしている。ぜひ(検討を)深度化できれば」と今後の展開に希望を示す。

巨額の事業費、課題は大きい

答申は有楽町線延伸と品川地下鉄について「東京メトロが事業主体を担うのが適当」とした。だが、同社はこれまで新線の建設は行わない方針を示しており、「仮に協力を求められるとしても経営の健全性を崩さないことが大前提」との立場を取ってきた。

このため、整備については国と地方が大半を補助する「地下高速鉄道整備事業費補助」の活用を提言。また、国と都が保有するメトロ株の売却についても「両路線の整備を確実なものとする観点」から、有楽町線延伸と都心部・ 品川地下鉄の整備期間中は国と都が株式の2分の1を保有することが適切とし、2路線の実現に向けた方向性を示している。

今後の動きについて、国交省の担当者は「事業主体(東京メトロ)のスタンスあっての話」になると話す。東京メトロは答申を受け、2路線の構想に対し「十分な公的支援」と「東京メトロ株式の確実な売却」を前提に取り組むとコメントしており、従来のスタンスからは前進したといえる。

ただ、2路線だけでも合わせて2000億円を超える事業費をどうするかは引き続き大きなポイントとなる。「地方(都)の負担分のうち、地元(区)の分をどうするか」といった点もこれからの検討課題となりそうだ。

一歩前に進んだといえる東京都心の地下鉄新線構想。コロナ禍で大幅に鉄道利用者が減る中、2008年の副都心線開業でいったんは「打ち止め」となった地下鉄の新線は実現に向かうか。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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