「生前贈与」が使えない!これが相続の新常識 「毎年110万円まで税金ゼロ」は無意味になる

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実はこれからメスが入りそうなのは生前贈与だけではない。

前述した、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与に対する非課税枠は、昨年末の税制改正大綱で延長が決まったが、後者については大綱で「制度の廃止も含め、改めて検討する」と謳われている。結婚・子育てで贈与されても「しょせんはファミリー内の資金移転であり、富裕層の節税策にすぎない」(与党幹部)とみられているからだ。

そして最終的に目指すのは、株式の配当や譲渡益にかかる、金融所得課税の引き上げに違いない。現在は税率20%だが、これを例えば25%に引き上げたいというもの。給与所得に対する税率は45%(年間所得4000万円以上)なのに、なぜ配当金やキャピタルゲインで儲けたら20%で済むのか、という議論は以前からあった。

生前贈与をしておくなら今年のうちか

ただし、これは株式市場に対するショックを考えると、相当にハードルが高い。安倍晋三前政権時代、財務省の主税局が何度も官邸に素案を持っていったが、株価暴落を恐れる当時の菅義偉官房長官(現首相)にたびたびハネ返された、という経緯がある。

まして現在はコロナ禍を受け、内閣支持率が低下している真っ最中。秋には総選挙と自民党総裁選も控える。菅首相が金融所得課税まで簡単にのむとは思えない。

いずれにしろ資産家に対する逆風は厳しくなっていく一方だろう。2021年末の税制改正大綱に沿って、相続税・贈与税の一体化が改正法案に盛り込まれれば、年明けの通常国会で審議され、早くて2022年度中の成立・施行もありうる。ある大手税理士法人のトップは「生前贈与をやるなら今年中だ」と言い切った。

格差是正に向けて走り出す政策。”持てる者”は今から準備しておいたほうがよさそうだ。

大野 和幸 東洋経済 記者

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おおの かずゆき / Kazuyuki Ohno

ITや金融、自動車、エネルギーなどの業界を担当し、関連記事を執筆。相続や年金、介護など高齢化社会に関するテーマでも、広く編集を手掛ける。

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