監査役は機能?積水ハウス「地面師事件」に残る謎 調査報告書の公表に1人反対した関西検察OB

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特別背任にも問われかねず、公益事業への信頼を著しく損ないかねない問題は、調査委員会によって矮小化された。しかも、委員長の小林は「所感」までつけて、経営陣を擁護している。

「不本意な形ではあっても誠実な対応を続けた挙げ句、税務当局との関係でも多額の出捐を余儀なくされた担当者らの境遇には、むしろ同情さえ禁じ得ない」と、個人の金品受領への対応を正当化したうえで、「結局、本件の本質は、個人の問題ではなく事なかれ主義というべき会社の体質の問題にほかならず、この改善と対策が焦眉であることが銘記されるべきである」と結んだ。

調査報告書が公開されると、小林に対して非難の声が上がった。朝日新聞の報道によれば、関西電力のある監査役は「元検事が違法性なしと判断した点を考慮して、監査役会として行動はしなかった」(2019年10月6日朝刊)と証言している。

また、報告書は取締役会に報告されることはなく、経営をチェックする社外取締役の目にも触れることはなかった。後の関西電力の調査では、八木や岩根は、報告書の内容を見て、取締役会への報告や対外公表をしないと判断したことが分かっている。小林の「所感」も判断に大きな影響を与えたことだろう。

報告書が公開されたのは、報道で問題が発覚した後のことだ。それまでは、会長の八木も社長の岩根も、問題の大きさを認識することなく、関西電力は多大な損失を被ることになった。

調査委員長に小林を就任させた人物とは

小林を関西電力の調査委員長に就けたのは、当時、同社で監査役を務めていた土肥孝治とみられている。土肥は1996年に検事総長を務めた大物である。退官後は、コマツや阪急電鉄、関西電力の監査役を務めてきた。

積水ハウスでも2002年4月から2017年4月まで、監査役を務めている。関西電力も積水ハウスも、土肥が任期を終えると、後任監査役にはヤメ検弁護士が就いた。前者は元大阪高検検事長の佐々木茂夫であり、後者は小林敬だった。積水ハウスのある役員は「小林さんは、土肥さんの紹介で監査役に就いた」と証言している。

土肥の監査役ぶりは、積水ハウスでも評判が実に悪かった。役員OBの1人は、私にこう証言した。

「私は社内の不正を土肥さんに訴えたことがあります。土肥さんが『わかった』と言うから、調査をするんやろうと思っていたら、告発した私のことを和田会長に報告しただけだった。『うるさいのがおるから、気を付けろ』とね。彼は結局、不祥事を見抜いたり、不祥事の芽を摘むための監査をしているのではなく、不祥事を訴える人物を抑え込んで、問題を表に出さないようにしているだけだった。元検事総長の看板を使って、告発する者や、不祥事を訴えるマスコミ、対外的な不祥事追及から、経営者を守る。まるで、番犬のようでした」

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