世間を賑わす「iPS細胞」とは何だろうか

今回の成果が画期的である理由

 今回のiPS細胞は、次の二つの問題、自分と同じセットの染色体をもつES細胞をつくる、しかも、倫理的に問題のある材料をもちいない、という点が極めて重要である。さらに、皮膚の細胞であれば、医者でないものでも細胞の採取が容易であろう、と想像がつく。すでに分化を終えた細胞がもとの未分化な状態に戻ること、脱分化、という現象は発生学の古くからある概念であり、多くの研究が蓄積されている。しかし、最終分化し体の一部として機能している細胞が、もっとも未熟な細胞に脱分化する、ということがありえるのだろうか、と考える研究者は多かったと思う。山中教授はこのことをマウスの皮膚の細胞を材料にまず示し、大きな話題となった。しかし、これまでのES細胞はマウスとヒトとでは性質が異なることが報告されており、同じ方法がすぐにヒトの細胞に応用できるのかどうか疑問視する考えもあった。

 この研究により、細胞移植により治療の道がひらける数々の重篤な病気、糖尿病、脳の神経系の脱落による疾病、心筋梗塞などにとって大きな希望がみえてきた。
 同時に、毛髪、皮膚(しわとり)、歯など、生命機能には直接かかわらないが、再生医療のマーケットとして注目を集めている分野にもきわめて重要な発見であろう。なぜなら、これらの再生は生命にかかわらないだけに免疫抑制剤を使ってまでも機能回復したい、とは考えられず、他人からの移植はまずありえない。したがって、自己移植による再生、すなわち、自分の細胞、あるいは自分と免疫学的に同一の細胞を用いて再生する必要があるからである。もし少し皮膚を提供する程度で毛が生え、しわがとれるのであれば、気楽に再生を希望する人々が少なくないであろう。

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