「死ぬまで低賃金」を嘆く56歳元専業主婦の貧困 美容師の仕事は時給1000円にしかならなかった

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貧しい生活が続くと、周囲の人々の生活状況に敏感になる。雅美さんは「貧しい人のなかにも格差がある。真面目に生きている人ほど損をしちゃう社会です」と憤る。派遣の同僚のシングルマザーたちが、自分よりはるかにいい生活をしているようだ。

「10万円の給付金と、子どもへの給付金で東京に旅行に行ったとか。もうひとりの子は夫婦で生活するより、離婚したほうがお金がもらえるから偽装離婚とか。えー、それ違うと思いながら聞いています。私はずっと真面目に働いて、主人が亡くなって、結局なにも残らないどころか、出ていくばかり。消費者金融の借金は、一生かかっても返せないかもしれません。だから、そういう話を聞くと、文句を言いたくなります。あまりにも違いすぎる」

情報強者は救済され、情報弱者は苦しみ続ける

日本の社会保障制度、借金救済制度は申請主義なので、制度を知って自分から申し出ないと受けることができない。情報強者は救済され、情報弱者は苦しみ続けるという性格がある。雅美さんは後者だった。

「もう、だいぶ前に自分の人生は諦めているけど、老後は海のそばに行って、静かに死にたいってひそかな希望はある。ひとりで行くのは淋しいので、一緒にいってくれる人がいればすごくいいかな。でも、満足に食べることもできない生活なので、出会いはないと思う。すべて諦めると、また死にたいと思うかもしれないから、それは怖いです」

2019年民間給与実態統計調査によると、正規と非正規、男性と女性の賃金差が明確にでている。女性の非正規労働者の平均賃金は152万円であり、男性の正規労働者561万円の3.7倍もの差がでている。

生活が苦しい雅美さんは収入を上げ、支出を下げて実質賃金を上昇させる必要がある。中年女性にまともな賃金が用意されてないとすると、肉体を酷使するダブルワーク、トリプルワークに突入するのは時間の問題だ。そうする前にまず早い段階で債務を整理し、家賃の安い部屋に引っ越すべきだったか。最後にそれを伝えてオンラインを切った。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。(外部配信先では問い合わせフォームに入れない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でご確認ください)
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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