非正規雇用が「日本の生産性」低迷させる根本理由 「最低賃金の引き上げ」なくして経済の復活なし
労働参加率は上がりました。イタリアでは、労働市場の規制緩和の結果、1995年から2000年の間に、労働参加率が2.5%も上がり、失業率は3%も低下しました。特に、女性と若い人の労働参加率が最も上がりました(4%と3%)。ただし、増加した労働者の大半をバイトや非正規(期間限定)雇用が占めました。
一方、イタリアでは、労働市場の規制緩和は全業種にわたって労働生産性にマイナスの影響を与えました。特に、スキルのレベルが相対的に低く、生産性が低い業種で労働生産性の悪影響が顕著でした。さらに、生産性の低い業種の雇用が増えたので、全体の労働生産性を下げる効果に拍車がかかりました(これを「組成効果」といいます)。
このような影響が生じたメカニズムを分析すると、生産性の低い業種で非正規雇用が増えることで、1人当たりの設備投資が減り、労働生産性の向上が遅くなったことがわかります。これを「資本深化の後退」といいます。
また、スキルのレベルが高くなればなるほど、労働生産性への悪影響は小さくなるとあります。最初に紹介した論文のとおりです。
重要な指摘として、「ICT投資などをしなくても利益を出せるようになった」という点が挙げられています。スキルのレベルが高くない低賃金の雇用を増やす、いわば「人海戦術」が可能になるので、ICT投資などが見送られ、労働生産性に悪影響が出ているとあります。イタリアでは、1980年のGDPに対する設備投資比率を100とすれば、2020年にはこれが65まで下がっています。ちなみに先進国平均は85、日本は72です。
要するに、労働コストが高くなると、ICTなどを使わないとやっていけないので、企業は設備投資をせざるをえなくなります。逆に、労働コストが安いと、設備投資をせず、付加価値が低くても、ビジネスモデルとして成立します。極論すれば「途上国は、労働単価が低いからこそ途上国なのだ」という理屈です。
イタリアは非正規雇用を増やしたときに賃金の規制も緩和しましたが、さらに最低賃金制度がないことも大事なポイントです。最低賃金制度がないので、経営者側は労働市場の規制緩和を機に、大いに人件費を削減することができて、労働生産性に大きなマイナスが生じたことが伺えます。
日本とイタリアは驚くほどよく似ている
ここまで紹介してきたイタリアの分析をベースに、日本の状況を検証します。
日本では、非正規雇用が増えたことによって労働参加率は高まり、2020年にはOECDの中で6位になりました。G7平均の79.7%より高い85.6%です(就業者数を生産年齢人口で割ったものです)。
特に、安倍政権の間に就業者数が大きく増加しましたが、その大半を女性、高齢者、学生が占めています。
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