言論弾圧だけじゃない「香港統制強化」隠れた課題 軍艦の補給や休養ができる代替港探しが急務に
今年7月1日に天安門前広場で行われた中国共産党百周年式典において、習近平・中国共産党総書記は重要講話を述べた。その中で、香港市民に対する習総書記の呼びかけは、台湾やマカオ、あるいは外国に住む中国人と同様に、「同胞」であり、これまでと同様に中国本土に暮らす人民と明確に区別していた。
中国は自国民について「公民」と「人民」とを微妙に使い分けることがある。公民とは中国国籍を有する人々を指す法律用語であり、人民とは政治的な概念とされている。
例えば、かつて中国では資本家や知識人、宗教家など共産党体制に反対する自国民を「人民の敵」と呼んでいた歴史がある。中国国籍を有する香港市民を公民と記述する文章を確認することができるが、香港市民に対して人民と呼びかけた事例を筆者は寡聞にして知らない。
目覚ましい経済発展を続けている大陸本土の中国人民から見える香港を、立教大学教授の倉田徹氏と社会学者の張彧暋(チョウ・イクマン)氏は、第4代中央政府駐香港連絡弁公室主任であった張暁明の言葉を借りて「無益な政治闘争ばかり繰り返すダメな場所」(『香港-中国と向き合う自由都市』<岩波新書>)と言う。
また「世界観、価値観、人生観に関わる根本的なもの、党の団結を害するものと」して宗教信仰を厳しく禁止されている中国共産党員にすれば宗教活動などが街中で行われている香港は退廃的で害悪に見えているのかもしれない。
駐留する人民解放軍と香港市民の接点はほぼない
1997年以降、香港には人民解放軍部隊が駐留している。駐留部隊の司令官官邸こそ香港島の名勝地ビクトリア・ピークに近い豪邸エリアに所在するものの、将兵の生活は駐屯地内で完結している。将兵の多くは駐留期間中を通じて駐屯地の外に出る機会もほとんどなく、香港市民と交流する機会も限られる。また将兵の家族の大半は大陸本土に留まっており、将兵やその家族が一般市民として香港市民と生活の場を共有することもない。
多くの国の軍隊、特に地上軍部隊は、多くの将兵が地元出身者で構成され、家族もまた地元民として暮らすことで、双方に有形無形の関係が築かれるものである。しかし、香港に駐留する人民解放軍将兵が香港を第2の故郷と感じるまでに親しみを覚えることはなかなか難しい。
そのうえ、中華人民共和国憲法では、祖国を防衛して侵略に抵抗することは、中国公民にとって「神聖な職責」であり、人民解放軍や武装警察部隊の兵役に服したり、民兵組織に参加したりすることは中国公民の「光栄ある義務」であると規定している。
大陸本土の中国人であれば共産党員でなくても等しく入隊を希望することが可能だ。ところが、たとえ共産党による統治を支持し、祖国防衛の志に燃えていたとしても、香港市民が人民解放軍に入隊する道は事実上閉ざされている。
香港市民からすれば、「一国二制度」の下での「兵役免除」と言う権利であり、人民解放軍の「兵役に服さない自由」であるのかもしれない。しかし、大陸本土の中国人民からすれば、返還から20年を過ぎてもなお、香港市民には中国人としての「神聖な職務」を果たすことすら認められていない「二級国民」であると見えていても不思議ではない。
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