報徳会宇都宮病院に今も君臨する95歳社主の正体 精神医療史に残る不祥事経てもなお最前線に立つ

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Aさん、Bさんの主治医を務めたのは、報徳会宇都宮病院の「社主」(=オーナー)、現在御年95歳、大正生まれの石川文之進(いしかわ・ぶんのしん)医師だ。少なくともAさんが退院した昨年、2020年春までは、同院の精神科診療の最前線に立っていた。

報徳会宇都宮病院のオーナー、石川文之進医師(95歳)(写真:同氏のホームページより引用)

実際、同院のホームページの神経・精神科の筆頭に、「社主、日本精神神経学会専門医・指導医」の肩書で紹介されている。また職員募集のページの、「精神科就職はコロナに強い。」との項目には、「当報徳会宇都宮病院は653床の精神病院(ママ)です。(中略)全国的に入院患者数減少のなか、社主石川文之進先生の重症患者様への診察と看護による努力で、当院では入院患者数はかえって増加しています」との記載もある。

今からおよそ40年前の昭和時代の末期、この石川文之進院長(当時)率いる報徳会宇都宮病院を舞台に、日本の精神医療史上で最大級ともいえる不祥事、「報徳会宇都宮病院事件」が発覚した。事件の概要は以下のとおりだ(日本社会事業大学大学院の古屋龍太教授「宇都宮病院事件と精神保健法」(2018年)などを参照)。

暴力による恐怖支配を徹底

1984年3月14日、報徳会宇都宮病院の看護職員が入院患者2人を暴行し死亡させたとしてマスコミ各社が一斉に報道した。1961年に57床から出発した同院は増改築を繰り返し、事件発覚時には920床(在院者944人)を有する、北関東最大の精神科病院となっていた。入院患者を定員超過まで詰め込む一方、有資格の職員は精神科医3名、看護師6名、准看護師61名とごく少数。そこで一部の入院患者を「配膳」と称し使役し、看護師らは主に彼らを活用し、暴力による恐怖支配を徹底していたとされる。

実権を持つのは石川文之進院長ただ1人であり、その指示により無資格者や入院患者がほかの患者の注射や検査等を行っていた。報道後、捜査を開始していた栃木県警は無資格診療指示の疑いで同氏を逮捕。その後起訴され、懲役8カ月の実刑判決が確定した。厚生労働省の医道審議会は同氏に対し医業停止2年の処分を決定した。

立件こそされなかったが、事件発覚前の3年強の間に計222人の入院患者が死亡しており、このうち19人は明らかに「不自然な死亡」であったとされる。また死亡患者の脳は、東京大学に標本として提供されるなど、東大医学部との蜜月も当時強く問題視された。

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民事訴訟では複数の元入院患者が、石川文之進院長の入院手続きと適否の判断に問題があったと損害賠償を求め提訴し、多くの請求は認められている。

メディアや同業者からも強く非難されたうえ国会でも取り上げられるなど、日本の精神医療の実態が大きく社会問題化された。事件発覚後、逮捕前に院長職を辞し、表舞台からは一度は完全に消えたかに見えた石川文之進医師。だが、惨劇の現場であるこの病院のみならず、これだけの大事件を起こした同氏さえ、「平成」を飛び越えて令和の世に至っても、「活躍」しているのが現実だ。

(最終第13回・中編に続く、7月16日公開予定)

本連載「精神医療を問う」では、精神医療に関する情報提供をお待ちしております。お心当たりのある方は、こちらのフォームよりご記入をお願いいたします。
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