「蔵元でありエンジニア」東大卒30歳の酒蔵改革 家業に入るまではエンジニアひと筋だった

拡大
縮小

「酒造りの世界にはアナログな部分がかなり残っており、いまだに温度管理が紙で、個人で行われていたりします。人力による米の計量作業や、発酵管理のための単純作業は深夜まで続き、疲弊してしまって、本当に必要な判断を妨げている部分もある。

そうした非効率な部分を一つ一つシステムに置き換え、合理化を進めています。すべてを合理化することはできないですが、できるところは徹底して合理化する。そうすることで初めて、人間にしかできない部分、その人にしかできない仕事と向き合えるのではないかと思うんです」

エンジニアを辞めない理由

西堀さん自作のもろみの遠隔温度管理システム。スマホやPCで閲覧でき、必要に応じて設定温度を調整する(写真:エンジニアtype編集部)

「なにぶん零細企業なので、リッチなシステムをどんどん導入するといったことはできません。ですが、技術はものすごい勢いで進歩しており、数年前にはできなかったが今なら簡単にできるということがたくさんあります。

単体で見れば技術的には大したことがなくても、うまく組み合わせると大幅に工数を削減できたりする。もろみの遠隔温度管理システムもそうやって、ありものの部品を組み合わせることで作りました。最近はPythonが流行りですが、こうしたものも、ちょっと調べればすぐに使える部品がたくさん転がっていますよね」

酒造りに軸足を置いた今も1割程度とはいえエンジニアリングの仕事を続けているのは、技術の進歩にキャッチアップし続けるためだ。そうした解決策が取れるかどうかは、単純に知っているか知らないかの違いだけ。最新の高度な技術を追い続けていればこそ、さまざまなソリューションの選択肢を持てる。

「一方で僕自身もかつてそうでしたが、エンジニアはしばしば技術的な高度さを追求して無用の長物を作ってしまう。本来は何か課題があったら、それを解決する手段としてエンジニアリングはあるはずなのに。その際には、技術的な高度さは必ずしも問題にはなりません」

エンジニア時代に細分化された「部分」の開発に終始していた時にはそのことに気付けなかったと、西堀さんは自戒を込めて振り返る。何かしら自分で事業をやると、解くべき課題ややりたいことがどんどん生まれる。そうすると、一方で追っていた技術を問題解決に存分に生かすことができる。これこそが二足のわらじを履くことの大きなメリットと言えるのかもしれない。

日本酒造りのオフシーズンにはリキュールの製造にも取り組んでいる(写真:エンジニアtype編集部)

一つの業界、一つの企業、一つの技術だけを追っていると、どうしても視野が狭くなってしまう。

酒造りの世界に“本籍”を移した今も、西堀さんはこうした意識の下に、業界外の人と積極的に交流するようにしている。そこから生まれたものの一つが、再生可能エネルギーを活用した酒造りの可能性を追求する『SAKE RE100』というプロジェクトだ。

「実は偶然という面も強いんですが、東京から栃木へと帰る新幹線で、同じ栃木に拠点を置くエネルギー業界の方とたまたま席が隣になって。いろいろとお話しさせていただく中でエネルギーという視点で見てみると、ビールやワインの業界には再生エネルギーを取り入れる流れがある一方、日本酒業界ではそんな話題さえ出ていなかった。であれば、僕らにもできることがあるかもしれないな、と」

活動の核にあるのはどこまでいっても日本酒の製造。だが、地場産の食品とのコラボレーションなど、そこから派生してできることの幅が広いのが日本酒のいいところだと西堀さんは考えている。内と外、主観と俯瞰を行き来することで、これからもビジネスとキャリアの可能性を広げていく。

取材・文/鈴木陸夫 撮影/竹井俊晴 

エンジニアtypeの関連記事
ブラウザゲームの衰退、新規事業の躍進…激動の10年を振り返って分かった理想のエンジニア像【DeNA元CEO守安功】
良い実務経験って何だ?「エンジニアが実務経験を買うサービス」構想で話題の勝又健太さんに聞いてみた
20代で意図せず幕を開けた“CTO人生”──経営と開発の間で見つけた「ものづくり」の本質【DMM新CTO・渡辺繁幸】

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
パチンコ業界で「キャッシュレス」進まぬ複雑背景
パチンコ業界で「キャッシュレス」進まぬ複雑背景
イオン、PB価格据え置きの「やせ我慢」に募る憂鬱
イオン、PB価格据え置きの「やせ我慢」に募る憂鬱
半導体需給に変調の兆し、歴史的な逼迫は終焉?
半導体需給に変調の兆し、歴史的な逼迫は終焉?
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
  • 新刊
  • ランキング
東洋経済education×ICT