原油価格は7月以降さらに上昇する懸念がある 1ドル=70バレル台の価格は一体いくらに?

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こうした需要の増加は、足元のデータにもしっかりと表れている。エネルギー需要を分析するうえで参考になるデータはいろいろあるが、一番簡単で確実なのは、製油所の稼働率を見ることだ。

というのも、アメリカの製油所は日々、ガソリンスタンドや航空会社、発電所や工場といった顧客から注文を受けており、足元の需要動向をいち早くつかみ取ることができる立場にあるからだ。製油所がこの先需要が伸びると判断すれば、稼働率を上げてより多くの石油製品を生産しようとすることになる。

逆に需要がなく、ガソリンを作っても売れないとなれば、精製施設の稼働を停止して生産量を停止することになる。新型コロナの感染拡大やロックダウンによって、全米の経済活動が停止してしまった昨年4月には、稼働率が60%台にまで落ち込んでしまったのは記憶に新しい。

現在の製油所の稼働率はほぼフル生産状態

その製油所は、6月以降92%台という、極めて高い稼働率を維持しており、積極的に石油製品を生産している。

92%ならもう少しだけ稼働率を上げられるのでは、と思うかもしれないが、それは間違いだ。製油所は安全対策のため、つねに施設の定期点検を行っているから、95%を超えて稼働率が上昇することは滅多にない。

それゆえ92%という数字はすでに「ほぼフル稼働状態」にあることを示唆している。恐らくは夏本番に向け、各製油所ともフル稼働状態の94-95%まで稼働率を上昇させていくのではないか。製油所がここまで稼働率を引き上げるということは、それだけ需要が好調さを維持していることにほかならず、それはそのまま原油相場のさらなる上昇を意味することになる。

ということは、WTI原油先物価格はこのまま1バレル=70ドル台半ばから70ドル台後半の水準まで値を切り上げることになるだろう。また、ただでさえ中東情勢が不安定なところに、イランでは保守強硬派のエブラヒム・ライシ師が大統領に当選したことで、同国とアメリカの関係悪化が懸念される。

さらに、今年はいつにもまして巨大ハリケーンが襲来するとの予想もあり、もしメキシコ湾岸にある生産施設の閉鎖などといった事態になれば、需要増に加え突発的な供給不安が生じることになる。そうなれば、一気に1ドル=80ドルの大台まで値を伸ばすことになっても、何ら不思議ではない。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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