小説家が暴露「映像化で本は売れない」残念な実態 作家・松岡圭祐氏が明かす「業界の裏事情」
ところがいかに有名スターの主演であっても、莫大な宣伝費のかかった全国劇場公開の映画、もしくは地上波全国ネットのテレビドラマでない限り、映像化は原作本の売れ行きにめざましい影響を与えません。単館上映やCS放送での映像化にもかかわらず、原作本がベストセラーになっている場合は、最初から売れていたと考えるべきです。
世間に浸透しないレベルでの映像化なら、原作本が受ける恩恵は、一般に考えられるよりはるかに低く留まります。せいぜい1回の重版程度、それも映像化の帯を巻いて書店に出荷した分を、すべて売り切ることなく終わったりします。
映画公開やドラマ放送の期間が終了しても、まだ映像化の帯が巻かれた原作本が書店に置かれているのは、そういう状況を意味します。アニメ化の場合も同様で、知る人の少ないOVA(オリジナルビデオアニメーション)でのリリースだったりすると、効果は極めて限定的です。
ベストセラーが確約されるわけではない
つまり映像化により原作本が爆発的人気を獲得するのは、映画やドラマが巨額の宣伝費をかけたり、広告以外のニュースメディアが取り上げたりして、知名度が一気に広がった場合に限ります。原作本への注目度の向上は、映像版の「大量の宣伝」による恩恵を受けているにすぎません。
その場合であっても、出版ビジネスにもたらされるメリットは、世間が想像するよりはるかに小さい規模に留まります。全国数百館での映画公開か、地上波全国ネットのドラマ放送でようやく、単行本で10万部、文庫で20万部ぐらいに達します。
原作本がもっと売れているのなら、それは小説自体の力なのです。映画化あるいはドラマ化と書かれた「帯の効果」のみに限定すれば、本の売り上げへの影響は微々たるものということです。
この事実をよく理解しておきましょう。たとえ映像化が実現しても、ベストセラーが確約されるわけではありません。「そうは言っても映像化がないよりは大きく儲かるだろう」と期待しがちですが、実際に映像化されたものの、文庫で1万部程度の重版のみ、100万円以下の儲けに留まることはざらにあります。文学賞の受賞を機に、出版社は受賞作を重版しますが、必ずしも売れるわけではないのと似ています。
映画が大ヒットした場合、原作本の売り上げが伸びるのは確かです。しかしいかに規模の大きな映画公開やドラマ放送であっても、ヒットしなかった場合には、原作本の売れ行きにも悪影響が生じます。小説の評価がどんなに高かろうが、さかんに宣伝された映像版が商業的に失敗すれば、まさしく「吹いていた風がぱたりと止まる」ように、原作本も売れなくなります。
「映像化がないよりまし」などころか、原作者として受けるダメージは相当大きくなります。特に出版社がベストセラーをあてこんで多く増刷していると、大量の在庫を抱えることになってしまいます。それらのほとんどが中古市場に流れ、商業出版としての原作本は、ほぼ死んだも同然の状況と化します。
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