ウォール街は、法改正による規制だけでなくカジノ的体質の改善こそ必要


金融と実体経済の逆転

この過程でほとんど忘れられていたのは、市場が自由化されるほど、規制当局は透明性を確保し、行き過ぎたリスクに対する警戒を怠らず、金融の技術革新とシステムの安定性との適切なバランスを見いだす必要性が高まる、ということだ。

そのうちに、「しっぽ」である金融部門が実体経済という「犬」を揺さぶり始めた。86年当時、米国の金融部門が国内の企業収益全体に占める割合は、16%未満にとどまっていた。ところがこの10年間は、その割合が40%に達している。

この変化と同時期に、ウォール街では、伝統的な銀行からトレーダーへとパワーシフトが起こった。ウォール街は、長期的な関係を重視して生産的なベンチャー企業に融資する、という姿勢から、顧客を利益を生む道具として骨の髄までしゃぶり尽くす対象と位置づける“ハゲタカ”へと変容した。ゴールドマン・サックスは、この変化を示す好例だ。09年度に同社はなんと収益の78%を、住宅ローン担保証券やその他のデリバティブなどの金融商品の取引から上げていた。

08年の危機は、長年さまざまな出来事があった揚げ句、ついに起こったことだ。エンロンやワールドコムやロングタームキャピタルの破綻、アジアの金融危機、バーニー・マドフのスキャンダルなどは、金融システムが徐々に制御不能に陥っていたことを示す兆候だった。

エコノミストでブロガーでもあるライアン・アベント氏は、強力な規制措置を別にすると、ウォール街に深くはびこった「カジノ」体質を強制的に変革させるためには「羞恥心」に訴えるべき、と主張する。一般国民、メディア、連邦議会は、ウォール街の法外なボーナスに軽蔑と嘲笑を浴びせることによって、エグゼクティブたちを当惑させ、彼らが報酬の減額に応じ、もっと税金を払い、ボーナスの一部をチャリティに寄付する方向へ向かわせるべきだ。

一般国民は、富そのものに憤慨しているわけではない。怒りの矛先が、マイクロソフトの創始者、ビル・ゲイツ氏や、アップルの創始者、スティーブ・ジョブズ氏のような人たちに向けられることはない。国民の怒りは、実質的な経済の拡大にはほとんど貢献しない金融商品の無分別な取引に由来するウォール街の強欲に向けられているのだ。

(本誌特約・ニューヨーク駐在:ピーター・エニス =週刊東洋経済2010年5月29日号)

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