夫婦別姓却下で考えた「家族は一体」という大誤解 最高裁が再び夫婦別姓認めない民法合憲と判断

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反対派の急先鋒である高市早苗衆議院議員は、『週刊東洋経済』2021年6月12日号のインタビューで、「『子の氏の安定性』が損なわれる可能性があること」を、制度導入反対の最大の理由と答えている。しかし、同姓にしたからといって、永続的に家族関係が続くわけではない。離婚はもはや珍しいことではないし、再婚や再々婚をする人もいる。昭和の時代には多数派であった夫婦と子どもから成る世帯の割合は、2019年には単独世帯より少なくなった。

同じ姓を持つ子どもたちもいずれ成長して巣立つ。その子どもが結婚すれば、また別の世帯を持つことになる。そのとき、同じ姓を持つ息子は家族の中に残され、異なる姓になる娘は家族から切り離されるということだろうか。同姓による一体感を強調するなら、女性は自分のベースとなっている親や自らの親族とは疎遠にならなければならないし、親は結婚した娘を切り捨てなければならなくなる。それはいったい、いつの時代の感覚なのだろうか。

たとえ同じ姓を名乗っていたとしても、家族内で問題が生じている例も多々ある。子どもを抑圧する「毒親」の存在や、ドメスティック・バイオレンス(DV)、親族間の性的暴行もある。引きこもり問題も親の高齢化により深刻になっている。介護疲れや、家族の中での確執が原因で、家庭内殺人が起こることもある。警察庁が発表したデータによると、2016年に摘発した殺人事件の55%が親族間で起きている。

家族それぞれが違う生き方している

うまくいっている家族も「一体」というわけではない。夫婦で同じ仕事をする家族は多数派とは言えないし、親子や夫婦で趣味が違うことも、子が親とは異なる生き方を選ぶ場合もある。いくら同じ姓を名乗っても、夫婦は異なる境遇で育っているし、女性差別が大きなこの国で、ぶつかる社会の壁も夫婦で大きく違う。時代の変化も激しく、親が子どもに自分と同じ生き方を求めることは困難になっている。

むしろ、家庭内でお互いの違いを認め合えれば、柔軟に生きることができるのではないだろうか。家族であっても異なる人間であることを前提にした関係性の中で、同じ好みを持っていることを発見すれば、親子は血のつながりを感じ、夫婦はパートナーにより魅力を感じるかもしれない。

棚村教授も、国民の意識が変わってきていることを前提に「家族のまとまりや絆も大切であるが、家族の中で1人ひとりの人格や個性が尊重され、それぞれの能力や存在が大切にされるべき」とコメントしている。

一方、選択的夫婦別姓法案・全国陳情アクション事務局長の井田奈穂氏は、最高裁判断を受けた報道関係者への一斉メールでこれからの見通しとして、「『合憲と判断した裁判官は、最高裁判所裁判官国民審査で×をつける運動』が起きるでしょう」としている。

「法律は時代や国民のニーズに応じてアップデートされていくものです」「私たちは人権問題に解を出せる政治家、裁判官を選ばねばなりません。そして私たちは自由や権利を取り戻すために、世論を自分たちでつくることができます」と訴える。今年はまもなく都議選が行われ、最高裁裁判官国民審査と衆院選がある。どんな結論が出るのか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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