泉谷直木・アサヒビール社長--首位陥落を顧客評価の低下とは認識していない
──スーパードライを一新することで、新たな需要を創るという考えはありませんか。
変えるか変えないかは、お客様が決めることで、拒否されれば別だが、今は喜んでいただいている。氷点下で提供する「エクストラ・コールド」など新たな提案をすることで関心を持ってもらえるなら、今の味、デザインを維持したまま、品質を上げていくことが、お客様への満足の提供だと思う。ダメなのは数字が欲しいからといって、何かを変えちゃうこと。これはメーカーのエゴです。
私はこう考えています。組織の活動の仕方やお客様のとらえ方などは、環境の変化に応じて変えないといけない。一方、会社が何によって成り立っているのかという経営理念の中で、一貫して大事なものはお客様の満足を得られているかどうか。これは変えられない。ただし、お客様のニーズが変わるのであれば、新商品で対応するか、スーパードライを変えるのかを考えるべきだ。
シェアの数字が減ったからといって、お客様のニーズが変化したとは限らない。確かに、既存ファンだけに固執すると対応が遅くなるおそれがある。だが、変えちゃいけないところに手をつけると、お客様が離れかねないし、組織のまとまりも欠いてしまうことになる。
──現在のように消費環境が様変わりする中で、国内基盤強化に向けた商品開発の戦略は何ですか。
最近はM&Aや海外の話を聞かれることが多いが、何をやるにしてもキャッシュフローが出てこないとどうしようもないわけで、国内需要の基盤安定がいちばん重要だ。今後は酒類市場が伸びることがないにしても、一気に小さくなるわけでもない。ビール類では引き続き差別化を図ると同時に、焼酎や清酒なども含めた総アルコール市場で新たなカテゴリーを生み出せないかと考えている。商品というより、新たな消費スタイルを提案することによって、新たなブルーオーシャン(有望な市場)が出てくることもありうる。